いくつものサイン

 ふたりだけに通じる仕草というものがある。
 それを決めるには少しの時間がかかったが、話し合う時間は1秒1秒が幸せで、とてもやさしいものだった。これをしたらこうして、ここを触ったらこんなことをしたい――そんなことをいくつも決めては、互いの要求を示して、相手の気持ちを確かめ合った。大切なその日の甘いやりとりを胸にした伯爵とシモンは、今日も逢瀬を交わして、愛に満ちたふたりだけのサインを送り合うのだった。

 古の悪魔城の、青い天守の間にて。
 月の光を浴びながら、窓辺で語り合っていたふたりは、秘めやかな笑い声をあげて、歓談に一区切りをつけた。満足げに息をついたあと、伯爵はひとり、玉座へと向かい、腰を下ろした。そしてこちらを見つめるシモンに向かい、軽く膝を叩いた。シモンは少し頬を染めたあと、玉座へと歩んだ。伯爵の目の前で草摺を解いて、地面に落とす。伯爵の表情はやわらかだ。眉を下げながら、ためらいがちに自身の膝へと腰を下ろすシモンを、待ちかねたようにやさしく抱きしめて、彼のためだけの玉座へと迎え入れた。

 伯爵はシモンの金色に輝く髪の毛に鼻をこすりつけた。狼にでもなったように、くすぐったい仕草ですんすんと匂いをかぐ。首や肩を小さくくねらせたシモンは、こそばゆさに困った顔をしながらも、伯爵と見つめ合い、嬉しい様子でキスをした。甘くついばむ音がこめかみに響く。

 伯爵は熱のこもったくちづけを交わしながら、そっとシモンの左手を取った。手指を一本一本包むように、指の合間を握りこむ。官能的な握り方は、まるで体を愛撫するようにやさしく、情熱的だった。とろりとしたまなざしのまま、シモンは右手を添えて、伯爵の手を握り返した。なにかを承諾したのだ。伯爵の目がやわらかく細まる。唇を離して、伯爵はこんなことを囁いた。

 「そのあとは、これをしたいな」

 シモンの太腿を触りながらそう伝えると、青年はなにもかもを受け入れるように、伯爵の頭を抱いて、胸元に顔をすり寄せた。うっとりと瞳を閉じるその表情は、ぬいぐるみを抱く子供のようでもあり、愛をささやく恋人のようにも見える。「君からはなにもないのか?」

 伯爵の言葉に、薄く目を開けたシモンは、脚の位置を少しずらして、伯爵の膝小僧をそっとなでた。あたたかな指の感触に、伯爵の喜びの笑顔がいっそう深くなった。嬉しそうにほほえみ、シモンをぎゅっと抱きしめる。伯爵はキスを交わしながら、しみじみと、『こんなふうに意思疎通ができるようになるまで、ずいぶんと時間がかかったものだ』と、青年と再会して間もないころのことを思い返していた。

 あれは今と同じように、青い天守の間で、ふたりが窓辺で語らっていたときのこと。
 伯爵とシモンは、その日あったおかしなことや、生活をするうえで足りないものなど、たわいもない話題を見つけては、穏やかな口調で語らいを楽しんでいた。新鮮な喜びに溢れていたが、同時に核心へ行き着かないじれったさもあり、どちらも当たり障りのない会話を続けながら、なにかを探し出そうと、ゆっくりと目線を動かしては、触れられない手をひとりで握りしめていた。いたずらに高まる焦燥と緊張感。ふとしたことで会話が途切れて、伯爵はついついこんなことを言ってしまった。

「暑くないか」
 確かに風は吹いていなかった。シモンはきょとんとした表情で「いや、特に」と返事をした。

「ここまで歩いてきて汗をかいたろう」
「いや、最近は慣れてきて、あまり体力を消耗しないようになったよ」

 思えば性急すぎたのかもしれない。しかし青年の鈍感さもなかなかのもので、明るい表情のまま、ひょいと伯爵に見せるように片脚を上げた。

「ほら、脚も立派になってきたようでな」

 きれいな太腿を見せて無邪気にほほえむ青年を、伯爵は唾を飲み込みながら見つめていた。この太腿で膝枕をしてもらえたらどんなにいいだろう――そんなことを考えながら。

 伯爵は気持ちを切り替えようと、窓辺から離れて、玉座へと向かった。考え事をするときはいつも玉座に座るのだ。癖が出て、腰を下ろしたときに、友が腰掛ける椅子がないことに気がついた。ぽつんと佇む青年を見たとき、魔法で椅子を出すことも考えたが、それよりもやってみたいことがあり、伯爵は好機を逃すまいと、こんな行動に出た。膝を叩いたのだ。シモンを見つめながら、なにかを促すように、音高く。

 シモンは首を傾げていた。「ん?」と、穏やかな、明るい、困った表情で。
 しばらく黙り、伯爵はもう一度、意味ありげに膝を叩いた。目配せをして、いつでも準備はできているというふうに。シモンは反対側に首を傾げた。「ん?」と同じように聞き返して、見つめ返す、その瞳のピュアなこと。
 伯爵は手招きをした。シモンの穏やかな表情は変わらない。「どうした?」「いいから。ちょっと、こっち」
 シモンは素直に伯爵のもとへと歩んだ。伯爵は迎え入れるように自身の膝の上で両手を広げた。
「ここに座ってくれないか」
 シモンはとまどった顔をした。「そんな、悪いよ。お前の上になんて」
「そうしてもらいたいんだ」がんとしてきかない伯爵の目線に促されて、シモンはなにも意図がわからないまま伯爵の膝に腰掛けた。すぐに立ち上がって、草摺を外し、もう一度腰掛けた。「うむ」と満足げに呟く伯爵の声。

「なにをしたいんだお前は」
「したいことはたくさんあるぞ。あんなことやこんなことを、君と一緒に」

 なぁシモン、と伯爵は青年の体をぎゅっと抱きしめた。

「会話では上滑りして、伝えたいことが出てこないんだ。このままではいつまでたっても、君としたいことができない気がするんだよ」

 シモンは困り顔のままだったが、言いたいことはわかると、誠実な表情で伯爵の腕に手を重ねた。

「言葉ではまだうまく気持ちを伝え合うことができないなら、それに変わる合図を作らないか。どこに触れたらこうしたいとか、ふたりだけに通じる合図を」

 たとえば、こんなふうに。伯爵はシモンの手指の合間に指を差し入れて、やわらかく、いとおしむように握りしめた。

「君と愛し合いたいというサインだよ」

 振り向いたシモンの、頬を染めた表情を、伯爵は飾りげのない、真摯な瞳で見つめ返した。「さっきも君にシャワーを浴びてほしくて『暑くないか』と尋ねたんだ」
 心臓を甘くくすぐられるような、胸いっぱいに広がる喜びを、シモンはどうにもできなくて、眉を下げたまま、真っ赤になってうつむいてしまった。

「膝を、叩いたのは」「こうやって座ってほしいという意味だよ」「あの、気づかなくて、すまない」「いいんだよ。説明不足だったからね」

 シモン、返事を返してほしいんだと、伯爵は指を握りしめながら囁いた。甘く、やさしく、情熱的に。手指を絡み合わせる仕草を、愛し合う行為に見立てている。そのことに気づいて、シモンはそっと伯爵の甲に手を重ね合わせた。安心したように伯爵が長く息をつく。

「ベッドの中でも、色々なサインを考えたい」

 シモンは伏せた瞳で、震える頬を伯爵の首筋に寄せた。了承するサインだった。

 身を清めたシモンの裸身を、伯爵はベッドの上で陶酔の面持ちで眺めていた。
 引き締まった体、豊かな肉付き、一分の隙もない見事な美しさ。石に彫り出すにはどれほどの技量がいるのだろう――魂と引き替えにしたなら、あるいは創り出せるかもしれない、完璧な肉体。恥じらう美貌、波打つ金髪、無垢な色味。彼を形成するすべてのものを、やさしく口でくくみ、愉悦へと導いてあげたい。
 首筋や胸元にキスを落とし、伯爵はシモンの肌を丁寧に愛撫した。抱き合い、音立てて口づけを交わし、体のすみずみをなであげる。お互いの気持ちが充分に高まったころ、シモンはおずおずとした瞳で「あの」と言った。
「サインって、どんな……」
「あぁ、うん、その」伯爵はこれまでに何度も思い描いてきた、シモンにしてもらいたいことのいくつかを、こちらもおずおずと提案した。
「たとえば、こうしたら」伯爵はシモンの耳の裏を触った。びくつく青年に、ごくりと唾を飲み込んで、「……その、口淫をしてほしい」と思いきって伝えた。シモンは頬を染めたが、「わかった」とひとことだけ告げて、体を折り曲げた。伯爵の股間に顔を寄せて、男根を口に含む。その熱いぬくみに伯爵は息を抜いた。なにも言われないまでも、シモンは伯爵の男根に快い刺激を与えた。いつも自分がされていることを覚えているのだろう。吸血鬼ならではの極上の舌技を、吸血鬼狩人たる愛する青年にされていることに、伯爵は無上の喜びを覚えるのだった。

 青年からの愛撫を受けて、伯爵の調子は一気に上がったようだった。シモンの舌のぬめらかさに充分に感じ入った伯爵は、青年の体を起こして、その淡紅色の乳首を両手でつまんだ。「あんっ!」と身をくねらせるシモンを見ながら、伯爵は「こうして正面から乳首を両手でつまんだら、君の胸でわたしのをしごいてほしいんだ」と、乳首をこねる手を休めずにそう言った。青年は乳首からの刺激に腰から切なく身を揺らしながら、わななく声を上げた。「あ、そんな、胸でなんて……どう、やって……」

 教えてあげようと、伯爵はシモンの体をやさしく押し倒した。そのまま馬乗りになり、青年の胸の谷間に陰茎を添えた。「左右から胸を押し上げて、わたしのを挟むんだ。先端を口で吸い上げて、胸と口で奉仕するんだよ」
 あまりの状態に信じられないといった顔をするシモンをよそに、伯爵は魔法でローションの詰まった瓶を取り寄せて、中身を青年の胸元にとろりと垂らした。冷たさにびくついて、シモンはどうにもできずに伯爵のことを見上げたが、その情熱に満ちた瞳にじっと見つめられると、頭がぼうっとなって、なにも考えられなくなってしまった。そして両手で胸を持ち上げながら、おずおずと先端を口に含むのだった。

 胸と口で奉仕するシモンを見下ろしながら、伯爵は再度、両手でシモンの乳首をつまんだ。「あっ」と口が離れる。それをたしなめるように、伯爵はつまみ、こねあげて、シモンを叱った。「だめだろう。ちゃんと教わったとおりにできないのかね?」

「んっ、する、けど……あっ、あっ、乳首は、いじらないで、くれ」

「君を気持ち良くしたいんだ。わたしばかり快くなっては申し訳ないからね」

 くりくりと指先でいじり、ぴんと弾いては、またこねあげる。腰は絶えず動かしていて、のけぞるシモンの顎を亀頭でいいように突き上げている。

「あんっ、やめて、あっ、あっ」

 かわいらしく抵抗するも、律儀に胸元を寄せて上げる行為を続けるシモンを見て、伯爵は息を荒くした。ふと後ろを見ると、シモンのがきつく勃ち上がって、たらたらと露をこぼしている。伯爵は青年の立派な男根を握りしめた。「はんっ」くちゅくちゅと蜜を絡ませながら上下にこすると、シモンは口での奉仕をすっかり忘れたように顔をのけぞらせて、その刺激に感じ入った。片手で乳首をつねると、思い出したように口を開いて、先端を甘く吸い上げる。けなげな愛撫と、とろけるようなその快美な表情に、伯爵はたまらず精を放った。秀麗な鼻筋にかかる白いとろみ。手指から伝わる熱いほとばしり。同時に絶頂を極めたふたりは、互いに陰茎を刺激しあい、残りがないように愛撫を重ねた。

 甘くひくつく体のまま、シモンはうつぶせにさせられ、尻をほぐされた。「自分でやるよ」と言ったが、伯爵はなにも言わずにローションを手指に垂らして、青年の肛門に挿入した。シモンは息をひそめて、彼のやりやすいように腰を浮かせた。丁寧でやさしい指の動き。恥ずかしさはあるが、それを上回るほどのいとおしさが胸に広がる。彼にならなにを見せてもかまわない。
 やがて伯爵に身を起こされたシモンは、今度は自分が伯爵の体に馬乗りになるよう頼まれた。陰茎を肛門にあてがい、ゆっくりと腰を沈めると、それは抵抗もなく内に飲み込まれた。息を抜いて、伯爵の熱に感じ入る。自ら腰を振ったことはないけれど、なにごとも経験だ。彼のために、徐々にやり方を覚えていこう――意を決して動こうとしたとき、伯爵に足首をつかまれた。彼は神妙な顔をしてこんなことを言った。

「少し恥ずかしいかもしれないが――こうして足首をつかんだら、君にこういうポーズをとってもらいたいんだ」

 膝立ちの脚を開くように言われた。後ろ手に体を支えるようにして、脚を左右に押し広げてほしいと。

「Mの字を書くように、膝を立てて、開脚してくれ」

 シモンは押し黙ってしまったが、なにも文句を言うことなく、そろそろと脚を広げた。両手両足をついて、背筋を反らす。
 その無防備な体勢は、あまりにもすべてをさらけ出す格好だった。
 大胆に脚を開いたその向こうに、起伏する胸と、恥じらい、横を向く端正な顔が見える。豊かな肉の中心には、屹立する男根と、興奮して膨らむ陰嚢が、そして欲望を咥え込む緋色の穴が、脈動を伝えるように熱い動きを見せている。伯爵はその光景にごくりと唾を飲んだ。想像よりもはるかに凄い、迫力ある姿に、まじまじと見入ってしまって、シモンの震える唇に気づくことができなかった。
 息を荒げながら、伯爵はようよう言った。

「尻を動かして――自分で動いてくれ」

 シモンはぐっと唇を噛み、瞳をとじて、言われたとおりに尻を動かした。ぎこちなく上下する腰の動きが伯爵の気分を昂ぶらせた。内腿に手をすべらせて、尻から膝裏へとなであげると、シモンはびくつき、首をのけぞらせた。小刻みに息をつき、秘めやかな音を立てて、なまめかしく腰を振る。くすみのない白い肌は、月の光と溶け合って、淡く、匂い立つような陰影に彩られていた。

「あぁ、美しい――美しいよ、シモン」

 伯爵はさみしそうに揺れるシモンの陰茎をぎゅっと握りこんだ。「あぁっ」きつくとじた瞳のまま、シモンは髪を振り乱した。「だめだ、いじらないで――」
「たまらないんだ、シモン」伯爵は陰茎を両手で包み、いとおしさと興味をこめて、淫らに刺激した。快感に押されるようにして、シモンの腰が激しくくねる。
「君のはしたない姿を、もっと開けた場所で眺めたい。胸も乳首もうんとかわいがって、腿をさすり、足の指を舐め上げて、君の内を激しく突き上げたい。なにも出るものがなくなるまで責め立てて、かわりにわたしの熱情を君に全部注ぎ込みたいんだ。シモン、もっと激しく、どろどろになるまで、わたしを高めてくれ」

 伯爵の欲望の吐露に、全身を乱された思いで、シモンは射精した。言葉とともに、裸身を縛り上げられ、胸も乳首も、秘部もなにもかもが、甘い舌で舐め上げられた気がした。ほんとうに彼の言ったとおりに愛されたら、自分は一体どうなってしまうのだろう。熱に浮かされた表情で、彼のものを快楽の余韻できつく締め上げると、伯爵も感じ入った声を上げて、射精した。

 しびれるような快感のなか、いくらか気を取り戻したシモンは、ずっとまともに見ていなかった伯爵の顔を、自身の脚のあいだから改めて見直した。快く息をつくいとおしい相手は、くったりと力をなくして開ききった自身のことを、いまだに熱の抜けきらないまなざしで眺めている。シモンの目に涙がにじんだ。知らずに流れたその涙を見て、伯爵があわてて身を起こした。体を抱き寄せられて、涙を吸われる。「すまない、すまない」シモンは伯爵の首筋に頭を寄せた。

「まだすることじゃなかったんだな。でも、ありがとう。とてもかわいらしかったよ」
 シモンは伯爵の体を抱きしめた。「ちがうんだ。嬉しいんだよ」
 気持ち良くて、幸せだったんだ。「最初は恥ずかしくて、どうしようもなかったけど」

 よくわからないといったように、伯爵は何度もまばたきをしたが、その声音に悲しみの色が感じられないのを聞き取って、彼はただ、青年の頭や背中をなで続けた。気分を変えようと、伯爵はシモンにこう尋ねた。
「シモン、君のほうからは、なにか合図を決めておきたいことはないのかね」
 少し考えて、シモンは伯爵の膝小僧をなでた。「それは?」
 伯爵の首筋に頭を寄せたまま、シモンは夢見る心地でこう答えた。「お前にうんと甘えたいときに、こうして、膝を触るから」
 伯爵は言葉の意味が遅れて脳に届いたように、最初はじっと黙って、なにも言わなかったが、青年の思いを理解すると、蚊の鳴くような音を喉の奥から漏らしながら、シモンをぎゅうと抱きしめた。犬がしっぽを振り回す勢いで、頭をぐりぐりとこすりつける。「痛い痛い」と笑われたが、かまわずに自身の思いを伝え続けた。
 かわいい。あぁ君はなんてかわいいのだろう、シモン。
「わたしのほうからも、もうひとつ」伯爵はシモンの髪の毛に鼻をうずめた。
「キスしたいときに、こうするから」
 シモンは思いに応えるようにキスをした。
 ぎこちない愛し方で、はじめは試行錯誤の連続だったが、逢瀬を重ねるたびに、ふたりだけに通じる大切なサインがいくつも生まれた。
 そして現在は――。
 
 
 シモンはローションをたっぷりと塗り込んだ尻に、伯爵の指を挿れられた。
 びくりとのけぞり、後ろを振り向く。彼はなにも言わない。とまどう自分を楽しむような目で見つめている。尻穴でうごめく指のかたちを理解すると、シモンは静かに唇を引き結んで、身を起こした。伯爵があとに続き、ベッドから降りる。尻穴には指を挿れたままだ。おぼつかない足取りの彼をエスコートするように、肛門に指を添えながら、青年と一緒に窓際へ歩んだ。

 シモンは窓に手をついて、脚を開き、恥じらう顔を伯爵に向けた。青白い光に照らされた青年は、身震いするほどに美しい。高貴な微笑を返した伯爵は、指を抜いて、シモンを後ろから貫いた。あぁ、と青年の顔が官能にのけぞる。
 上下回転、左右回転、8の字と、伯爵は様々な腰文字を描きながら、シモンの尻に音高く腰を打ち付けた。振動とともにぶるぶると揺れるシモンの陰茎が窓に映って卑猥な動きを見せている。両脇から胸をもみあげると、シモンは甘くあえいで、微細な震えを窓に響かせた。乳首をこねると尻がくねり、シモンの足腰ががくがくと震えた。「いや、そこは」突き出した尻がさらに低く押し出される。亀頭をくすぐり、蜜を搾り取っては、ぬめる指で乳首を責めた。
「あぁっ、あぁっ」きゅうとすぼまる尻穴の感触を楽しみながら、伯爵は「しっかりしないか」と、シモンの太腿を音高く叩いた。甘い叱咤に涙がにじむ。尻への腰の打ち付けは、そのまま尻叩きのような快美な仕置きに感じられて、シモンの腰を力なくくねらせた。

「丈夫な足腰を持っているというのに、仕方のない子だ」

 伯爵はシモンの両脚を抱え上げた。勢いよく変えられたポーズは、子供に小用を足させる格好だった。「あっ、いや」恥じらうシモンを無視して、伯爵は魔力を飛ばして、窓を開けた。シモンに突き入れたまま、バルコニーに用意されたカウチへと移動する。歩むたびにシモンの内は敏感な角度で突き上げられて、振動と一緒に涙がこぼれた。

 カウチに腰を下ろすと、伯爵といっそう深く繋がった気がして、シモンは恥ずかしげに身を縮こまらせた。そんなこわばりを解こうと、伯爵はシモンの唇をやさしく塞いだ。青年の瞳が甘くとろける。ゆっくりと、喜ぶように伯爵を締め付ける薔薇色のすぼまり。

「嬉しいかね」

 胸をもみ上げながらそう尋ねられて、シモンは声にならない嬌声をあげた。
 恥ずかしいのに、気持ちいい。誰にも見られていないこの場所で、裸のまま、彼とふたりで抱き合っている。

 三日月は静かに光り、夜風とともに冷たい明かりを降ろしている。愛に満ちたこの光景はどんなふうに照らされているのだろう。あのときのように脚を広げて、彼のものを締め付けて……。

――”君のはしたない姿を、もっと開けた場所で眺めたい。胸も乳首もうんとかわいがって、腿をさすり、足の指を舐め上げて、君の内を激しく突き上げたい。なにも出るものがなくなるまで責め立てて、かわりにわたしの熱情を君に全部注ぎ込みたいんだ。シモン、もっと激しく、どろどろになるまで、わたしを高めてくれ”――

 あのときから彼の願いは変わらない。
 シモンは思いに応えるように、全身を熱く染めて、彼の愛撫に身をゆだねた。
 耳の中に舌が入る。内腿をさすられて、陰茎をしごかれては、足の裏をくすぐられる。内にはあふれるほどのローションが注がれて、突き入れのたびに彼の股間をあたたかく濡らした。シモンの目尻に新しい涙が浮かぶ。
 自分を心から求めて、やさしく乱してくれる彼への、いとおしい思いがこみ上げたのだ。
 あぁヴラド、もっと、もっと――。

 長い長い突き上げのあと、シモンはそこに設置された噴水のように、白い熱情をほとばしらせた。彼と繋がる部分を、奥深くまですぼめるも、伯爵は満足しないように薄くほほえみ、ぷっくらと膨らんだ両乳首をこねあげた。
「あっ、いや、だめ、だめ……あぁっ」

 君ばかり達していけない子だ――震える腿を無視して、伯爵は乳首と一緒に、絶頂を極めたばかりの陰茎をしごいた。「いやっ、いやっ――あぁっ!」シモンの脳裏に光が弾けた。恥ずかしい音を立てて、シモンは潮を吹いた。透明な滴が彼の手をはしたなく濡らしていく。「あっ、あっ……」紅潮した頬に涙が伝った。か細く響く泣き声に聞き入りながら、伯爵はシモンの内に精を注いだ。

 甘くとろけた顔をした青年の肌をなでさすり、伯爵は美しく輝く金色の髪に鼻をうずめた。泣きはらした顔を向けて、シモンがキスをした。熱く絡み合う舌がふたりだけの幸福の音を響かせていた。

 伯爵とシモンは毛布にくるまりながら、カウチに身を寄せて、月を眺めていた。
 どこからか虫の声が聞こえる。コウモリのはばたき、木々の葉擦れ。風はやさしくそよいで、ふたりの胸に涼やかな空気を送っている。
 伯爵はシモンの頭をなでていた。その手指はどこか頼りなげだった。指先で髪の毛をいじりながら、視線を月から青年へと移し、彼はシモンにこう尋ねた。
「膝枕の約束を覚えているね?」
 玉座に乗せたときに、太腿を触ってサインを送ったのだ。
「うん」とシモンが答えた。

「先に君のお願いを叶えたい」声音は臆病な中年男性そのものの、愛を知った響きだった。「その……無理をさせたから……」

 わたしでよければ、なんだが……と、もにょもにょと話す伯爵を見上げて、シモンは唇を引き結んだ。伯爵を見つめるまなざしは清らかで、彼を気遣う気持ちに満ちている。
 お互いに快く性交に浸るための、気の強さというものは育ったけれど、生来のやさしさから来る、この反省の仕方は相変わらずだ。こんな存在だから、どうしようもなく、胸がきゅうとくすぐられる。
 シモンは首に腕をまわして、「お前じゃなきゃ、だめだ」と囁いた。もう一度、膝に触って、うんと甘えたいという意思を示す。
 ほっとして、嬉しそうにキスを落とした伯爵は、新たにひとつの提案をした。「新しいサインを作らないか」

 体の一部に触ったり、誰にも悟られない言葉で愛を伝えるのもいいけれど、なにかそろそろ、新しいものを作りたいな。

「たとえばそうだな――ウインクはどうだろう? 皆がいて、手を握れないときにでも、愛し合いたいと伝えることができるぞ」
「ウインクって?」

 伯爵は品良く片目をつむってみせた。納得いったシモンは、自分も真似しようとして、片目に力を入れた。しかし、どんなにがんばっても、両目をぎゅっとつむることしかできなかった。くっと伯爵が顔を伏せた。薔薇の花が咲くような、華麗な笑い声が体をゆする。なおもウインクに挑戦するシモンを、伯爵はめいっぱいの愛を込めて抱きしめた。

「あぁかわいい。かわいいよ、シモン。
 ――君をいつまでも、愛している」

 ふたりだけの幸せなサインは、これから先も少しずつ増えていく。

 終
 15/08/25(火)

 甘々といつものエッチな感じで。
 鍵アカツイートで『伯爵様の愛を込めたサインにピンと来なくて、ピュアな瞳で「ん? ん?」と首を傾げながら、その様子を見つめ返すシモンさん』というのを想像したら幸せな気持ちになりまして……色々な合図を決める話を書きたくなりました。
 初々しいころと、甘々なころのふたりを書けて満足です。