7/26
昨日とはうってかわって暑い日だ。マグにいるふたりは陶器の肌に身を寄せて涼を得ている。小さなわたしはともかく小さなシモンが気の毒だった。どうして風も通らないマグの中にいたがるのだろう。月夜とはいえ気温は高い。アイスコーヒーでも注いであげようか。それは冗談だが、しかしまぁ、どうせ暑いのなら思いきり汗をかいたほうが心地よかろう。運動なりなんなりすれば良いのだ。うちのシモンも――わたしはそれにつきあうつもりだ。
そこまで書いた伯爵はペンを置いた。シャワーから上がったシモンがバスローブを身につけてソファに座るところだった。伯爵が指を弾くと隣室の扉が開き、ティーワゴンが気品ある物腰でふたりのそばまで移動した。アイスコーヒーと軽食のセット、それからなぜか優雅な皿に乗せられた棒状のバニラアイスが冷えた空気を運んできた。シモンの隣に座った伯爵は甘いまなざしで彼を見つめた。胸ときめくような優しい視線が絡まり合う。「食べさせてあげよう」棒付きのバニラアイスを手に取った伯爵は、ゆっくりと青年の口にアイスを近づけた。シモンの瞳は風呂から上がったときから呆と甘くとろけていた。愛し合うつもりでいたのだ。最初は恥ずかしげに、しかし求められるままに徐々にねぶる舌先は伯爵の熱を吸い上げるように音立てて動いた。アイスは様々に向きを変えて鼻や頬にいたずらをする。青年の口まわりを白く汚した伯爵は、くすりとほほえみ、バスローブに手をかけた。乳首だけを見せるようにはだけさせると、そのぷっくらとした突起にバニラを押し当てた。びくつき、悶える青年の肩。伯爵は力をこめてバスローブを腰までずり下げると、肌を流れるとろけたアイスに口をつけた。シモンの瞳が熱く震えている。くりくりとアイスでいじっては、流れ落ちるバニラを舐め上げて、ツンと張り詰めた乳首を舌で鞭打つ。ふるふるとこわばる顔でじっと耐えていたシモンは、伯爵の頭を見下ろしながら一心にこんなことを考えていた。
食べ物を無駄にしているわけじゃない。ヴラドは全部食べているんだから、これはきっと、悪いことじゃなくて――その……。
「言っておくが食べ物を粗末にしているわけではないぞ。気にすると思ったから言うんだが、これは君の肌と一緒に味わっているのだからな。いいか、よけいなことは考えるんじゃないぞ」
「あぁ、わかっていたのか」
「君のことだからな」
シモンはくすくすとほほえんだ。顔を上げた伯爵は、気にするなと言ったわりに自分で気が削がれたのか、残りをちゅぱちゅぱと舐めだした。シモンは愛おしげに目を細めた。甘い香りのする唇で伯爵の頬にキスをする。私にもとねだるようにバニラアイスに口を寄せて、ふたりは一本の棒をあとかたもなくねぶった。そして舌を絡めてお互いの肌をさすった。熱のこもった吐息が絡まる。シモンの首筋に汗が流れて、それはぷんと甘い匂いを発散させた。バスローブがすべて脱がされる。止むことを知らないキスの雨が裸の胸に、腹に、太腿に降りそそぐ。あぁ、なんてあたたかい慈雨だろう。
伯爵が服を脱ぐあいだもキスは何度も交わされて、吸い付く勢いで唾液と息を交換した。シモンは待ちきれないように伯爵のズボンを脱がせて、そのことが伯爵を驚きとともに喜ばせた。なんと積極的になったことだろう。あぁそんなふうにわたしの体をひっくり返して、靴も靴下も引っこ抜いて――なんだか恥ずかしいな。
逸物を口に含んだシモンの頭を愛おしげになでていたが、伯爵はどうも気分が乗らないことを自覚していた。なんとなく乗り切れないのだ。久しぶりすぎて愛し方を忘れてしまったのだろうか。このままではいけない、なんとかしなければ――。
ふとティーワゴンを見ると、窓際にいたはずの小さなふたりがそこにいて、アイスコーヒーの陰から目を離せないようにこちらを見ていた。ぎょっとした伯爵は思わずしっしとしたが、言うことを聞くわけがない。小さな伯爵はお手並み拝見というように腕組みをしている。カッときた伯爵はアイスコーヒー用のミルクを魔力で浮かせて、小さな伯爵に注ごうとした。ところがなんとけなげなことか、小さなシモンは小さな伯爵を突き飛ばして、その身にミルクを浴びてしまった。透明に響く小さな声を聞いて、シモンは顔を上げた。激怒する小さな伯爵と、全身が白く染まった小さな自分が、ネトネトした体をもてあましていた。
「なにをしたんだ、かわいそうに」
ドールハウスまで連れて行こうと身を起こしたシモンは、小さな伯爵にそれを止められた。まるで見ていろといわんばかりに目で制する。動きを止めたシモンをよそに、小さな伯爵はネトネトになった彼に何事かを促した。恥ずかしげにしながらも、仕方ないといったように、小さなシモンは服を脱ぎ始めた。サイズは異なるが確かに存在する恥じらいと純情さに、伯爵とシモンはごくりと唾を飲んだ。うつむく視線は水上がりの切なさをたたえている。
裸になった小さなシモンは、小さな伯爵にほっぺたを舐められた。頭から次々に流れ落ちるミルクを、まるですべて舐め取ってあげるというように、ぺろぺろと絶え間ない愛撫を身に受けた。小さなシモンの可愛らしいそれが勃ち上がってゆく。やがて脚に力が入らなくなった小さなシモンは、ミルクだまりに尻をついた。とろりとした目で彼を待つ。後ろにまわった小さな伯爵があやしげにかがみこみ、ゆっくりと身を沈めた。そして脚を抱え上げて、恥ずかしがる小さなシモンの、そのいじらしく揺れる肢体を皆に見せた。小刻みなあえぎ声が肌をくすぐる。
言いようのない敗北感を胸に、ふと隣を見ると、シモンが口を薄く開けて荒い息をついていた。小さな自分が乱れる姿に欲情したのだ。
「シモン、君というやつは」
まるで小さな伯爵に寝取られたような思いがして、後ろにまわった伯爵は、シモンの胸を悔しさにまかせてもみ上げた。魔法で取り寄せたローションを胸に垂らし、ヌメヌメと強引に肌をまさぐる。「小さな自分と同じように全身をいやらしく濡らしたいか」
「そんな、こと」とまどったように熱い息をついて、シモンは伯爵の手に両手を重ねた。恥じらう顔を首筋に寄せて、何も言わずに、すべる指を絡ませる。
「皆が見ているのにやめてとも言わないのだな」
わたしは彼らを隣室に移動させようとしたのに、君ときたら見られるのもかまわずに自ら肌をもみ上げて――まったく君はなんとみだらでいけない子供なのだろう!
冷たく責める囁きにシモンはぞくぞくと身を震わせることしかできなかった。耳からの快楽に悶えるあいだ、シモンは小さな自分を何度も見ては、頭からポタポタと滴をこぼすその姿をうらやましく思うのだった。
伯爵はシモンを床に組み伏せた。仰向けにして、膝を頭の位置までひっくり返すと、丸見えになった尻のあいだからシモンを見据えた。「だいたい後転をする君の姿も破廉恥でいやらしかったぞ。君はあのときから皆を誘っていたのではないか?」
シモンは息苦しさではなく羞恥から頬を赤らめた。「誘ってなんか、ない」「どうかな」伯爵は意地悪く尻の穴を人差し指でつんつんとつついた。ひくりと動いた穴が伯爵の指をつぷっと飲み込んだ。「そうら、咥え込みたくてたまらなかったんじゃないか」否定するように呻くシモンをあくまで高貴に愛おしみながら、伯爵はローションを手にとって、丸く尖った先端を穴に押し込んだ。注入しやすい形のそれはするすると根元まで入り込み、シモンの息をつめさせた。容器を握り、ゆっくりと中身を押し出す。冷たい刺激を受けてシモンは腿をかたくこわばらせた。鋭くも奇妙な快楽を伴った気持ち悪さ。
「あぁ、あぁ――やめて――……っ」
「我慢するんだ。がんばって全部を飲み込んだら、あとでちゃんとご褒美をあげるからね」
くぅ、と甘い泣き声がした。従順な犬がしつけに従っているような声だった。後転のときに伯爵が見せた情けないポーズを取らされて、言い様に尻をいじられている。屈辱と快感がごちゃまぜになり、シモンは赤く染まった目尻から、つうと一筋の涙を流した。
ミルク瓶ほどの容量はすべて、たっぷりと時間をかけて、シモンの腹の中に注がれていった。
伯爵は空になった容器を放り、くすくすと笑いながらシモンの穴に指先を抜き差しした。淫靡な水音を立てて、あふれ出そうとする液を指で押し戻す。尻たぶに口づけて、内奥をこすっては、びくびくと打ち震えるシモンの姿を楽しむのだった。
「このまま中身を頭からかけてあげようか?」
いやだ、と小さく震える声がした。指で栓をしていなければすべてがあふれ出すのも時間の問題だった。こんな格好で中身を噴き出したくはない。恐怖はあっても体はどうしようもない興奮を覚えていて、シモンの肉茎は痛いほどに張り詰めながら、たらたらと露をこぼすのだった。伯爵は目を細めて、やわらかい声でこう囁いた。「あぁそんなに嬉し涙をこぼして……おかわりが欲しいのかね?」
新たなローション瓶をたぷたぷと振る伯爵の姿に、シモンは目を見開いた。青ざめた顔で「いや、いや」と涙を浮かべる。
「大丈夫だよ、君のおなかの中にはまだまだ入る――」そして伯爵は二本目の注入を開始した。
「いやだ、苦しい――やめて、入れないでくれ」
「あんまりわめくとあふれ出してしまうよ」
「お願い、お願い――あぁ」
懇願するあいだにも容器の中身が自身に吸い込まれていく。震えるほどの苦しみがあるのに、体はみずからの露で濡れていく。
「ヴラド……こぼしたくない、お願いだから……」
思いが受け入れられることはなかった。伯爵はひくひくと震える尻穴の様子を慎重に見守りながら、媚薬の混じったローションを手際よくシモンの中に流し入れた。ゆっくりと沈みゆく透明な嵩。シモンはきつく目を閉じ、息を細めながら、注入が終わるのを待っていた。怖れと恥じらいはあるが、愛による導きと、認めたくはない好奇心に従っている。なにより、本当に彼が望むことなら――。その従順な姿勢が伯爵を大いに喜ばせた。「良い子だ」伯爵はシモンの震える尻を優しくなでた。なめらかな手が愛おしげにヒップをつつむ。シモンは自ら膝裏を抱え上げて苦しい体勢を維持していた。ちょっと力を入れたら勢いよく噴出してしまいそうだ。中は冷たく、熱い。肌が粟立ち、腹腔に痛みが走る。尻にかかる鼻息にも感じてしまう……。
二本目のローションが空になろうとしていた。音も無く吸い込まれるさらさらとした粘液。
やがてすべてを漏らさずに飲みきったシモンの尻に約束のご褒美が与えられた。熱くたぎった伯爵の男茎が沈み込んだのだ。
「あぁっんんん――!」
伯爵は上から二、三度突き入れたあと、ほほえみを深くしてシモンの体を抱え上げた。そのまま横になり、シモンに跨がせる格好を取らせて「動いてごらん」と声をかけた。すでに肉の隙間から幾筋もの流れが生まれている。シモンは涙声を震わせながら「だめ、あふれる、こぼれてしまう」と身をこわばらせた。ふふっと笑う声がした。
「それでいいんだよ。君の中であたたまったものがわたしの上に注がれる。それが実に心地良いんだ」
君も出したくてたまらないだろう? と、伯爵はシモンの尻や腿に手を添えた。そして視線を飛ばし、ティーワゴンを自分たちのそばまで移動させた。小さなふたりが熱く欲情した瞳でこちらを見ていた。四つん這いの青年に腰を突き入れている小さな伯爵。マグの中から覗かせていた切ない表情でこちらを見つめる小さなシモン。互いの乱れる姿を目にしたシモンは、なにかに促されるように腰に力を入れた。ゆっくりと尻を浮かせると薫り高い透明な液がこぼれだし、伯爵の腹をあたたかく濡らした。「降ろして」伯爵の囁きを受けたシモンは、鼻から抜ける甘い声を上げながら腰を落とした。奥を突かれてとろりとした水が弾ける。「もう一度、上げて」すでに肛門はひくひくと蠢きゆるんでいる。淫水は肉棒を伝って流れ落ち、止めようがない。ぎりぎりまで引き抜いたそこからは、まるでおもらしのように、何度も何度もみだらな液があふれ出るのだった。
「はぁあ――あぁっこんな……んあぁっ」
「気持ちいいだろう、シモン? 君はおもらしが大好きだったものな」
「ちがう……あぁん、違うったら――」
乳首をこねくり回され、腿をさすられ――快感を否定するその表情は熱く潤んで、排泄による開放感から上気している。伯爵はシモンの逸物をぎゅっとつかんだ。怯えて息を呑むシモンに「ではこちらにも入れてあげようか?」とほほえみ、伯爵は三本目のローションを手に取った。「いやぁ、それはだめ」尿道に注ぎ込まれる恐怖にシモンは自ら腰を振った。「不正直な子は嫌いなんだ」伯爵が尿道に瓶の先端を押し当てた。「あぁあ、言う、言うからぁ」シモンの内は豊潤なぬくもりがあった。いまや青年は何も言われないでも腰を振り、ぱちゅんぱちゅんと音を立てて、あたたかな水たまりに尻を打ち付けている。全身をくねらせ、恥ずかしげに震えて、大きく身悶えたあと、シモンは目をきつく閉じながらこう叫んだ。「気持ちいい」
言葉と同時に射精した。それは伯爵の顔にかかり、胸や腹を白く汚した。きゅうとすぼまる尻穴の奥で、伯爵も射精した。達しのあとの緊縮を経て脱力に向かう尻からは、こぷこぷと泡を立ててローションがあふれ出している。ぺたんと尻を落とした格好で、打ち震えながらすすり泣くシモンを、伯爵は優しく抱き寄せた。労るようなキスを何度も落として、「愛しているよ」と囁く。シモンはキスを返してそれに応えた。
「ごらん、小さなわたしたちも愛を深めたようだよ」
ティーワゴンのふたりを見て、伯爵とシモンは目を細めた。抱きしめ合うふたりが、とろりとした目で乳を飲むようなキスを交わしている。長い長いキスの途中で、小さな伯爵の腰がふたたび動き出した。三回目を挑むつもりだ。
「彼らもわたしたちの姿を見て燃え上がったようだな」
シモン、ローションはまだまだたっぷりあるぞ。そう言った伯爵の頬にシモンは受け入れるようなキスを落とした。
甘く濃密な夜が深々と更けていく。自分自身の欲情した姿に燃え上がる、快楽に満ちた熱い夜が。
7/27
ふと目覚めると小さなわたしたちが消えていた。マグはなく、机の上にはさらさらとした月明かりが降りるのみ。
いや、思い出はあった。メモが残されていたのだ。そこには小さな文字で『さようなら 元気で』とあった。こちらの言葉をいつ覚えたのか、それはわからない。そのメモにはおそらく小さなシモンのものだろう、ニコニコと笑いながら手をつなぐわたしたちの絵も描かれてあった。
彼らが何者だったのか、結局なにもわからなかった。
ただ、豊かな刺激を与えてくれたのは間違いない。
彼らの無事を祈り、観察日記はここで終わることにする。
ページを閉じた伯爵は後ろのシモンを振り返った。彼らの残した手紙を見つめながら、シモンは物憂げにほほえんでいる。
「さみしいかね」
「少しな。でも、きっと元いた世界に戻ったんだよな」
「あぁ、きっと無事に着くだろうさ。なんといっても小さなわたしが一緒なのだからな」
「うん。そうだな」
シモンは少し考えてからこう尋ねた。「……あのドールハウス、残しておいてもいいかな」
伯爵は静かにうなずきながらこう答えた。「そのつもりだよ」
シモンは伯爵の肩に頭を寄せた。伯爵は青年の肩を抱き、同じく頭をくっつけた。
青い部屋、窓辺の月明かりがいつも違う色を運んでくる、新しい風が吹き抜ける場所。
小さな自分たちがいた机の上を、ふたりは長いあいだ、心を重ねながら見つめていた。
亜空間を移動中、小さなシモンは最後の一行を書き終えてノートを閉じた。
……彼らの健康と友愛を祈り、観察日記はここで終わることにする。
小さな伯爵はできあがりを見せてもらった。ぱらぱらとめくり、気になった日にちを読む。
7/20
次元旅行は無事成功した。異世界の私たちは神話に語られる巨人のごとき大きさだった。こちらの世界の私たちも友愛を誓い合った仲で、突如出現した私たちのことも穏便に迎え入れてくれた。必要以上のことは干渉せず、こちらのスペースを守ってくれる。言葉はわからないが、大きな彼らのことは非常に興味深い。大きなヴラドも私たちのことを記録しだしたようだし、滞在記録も兼ねて、私も観察日記を書き付けてみようかと思う。
7/21
ここの世界のヴラドも優しい。わたしのために小さく切り分けた食事と、椅子やテーブルといったものを用意してくれた。彼のために心からの感謝の祈りを捧げたい。
そしてこちらの世界の私は行動的で、私たちのために魔法仕掛けの立派な家を用意してくれた。水が出て風呂も沸く、下水処理も完璧な不思議な家だ。言葉はわからないだろうが、「ありがとう」と彼に伝えると、大きな私は穏やかな笑みを返してくれた。
改めて思うが、私と彼とが心通じ合う世界とはなんと素晴らしいものなのだろう。他者への余裕と思いやりが生まれる関係。こんな世界に来られて本当に嬉しい。
7/22
大きなヴラドが暇をもてあましたのか、増築案の図面に絵を描いていた。アンティークな美しさと気品が感じられるとても上手な絵だ。狼、ドラゴン、月とお城、死神まで美しく描いている。こんな才能があったなんて知らなかった。感心しているとうちのヴラドがペンを取り出して同じく素晴らしい絵を描いてみせた。やっぱりヴラドはとても素敵だ。私にできないことを軽々とやってみせる。……
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7/25
さみしさを募らせたのか、大きなヴラドが机にうつぶせて彼の名前を呼んでいた。もしかしたら昨日、大きな私と会う予定があったのかもしれない。そうヴラドに伝えると、彼は実に情けないといった顔でフンと鼻を鳴らした。あの表情はよからぬことを考えているときに見せるものだ。なにかおかしなことをしなければ良いのだが。
……一瞬緊迫した場面があったが、見つめ合い、二言三言言葉を交わしただけで、ふたりは何事もなかったかのように穏やかなまなざしになった。どうやら気持ちが通じ合ったらしい。月明かりのなか、互いをいたわるほほえみがとても美しい。
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7/27
お別れの時がきた。昨夜たっぷりと愛し合った疲れからか、ふたりともぐっすりと寝ている。黙って行くのは悪い気もしたが、今の星の並びを逃したら今度はいつ帰れるかわからない。せめて置き手紙を残しておこう。私はこの世界の文字は書けないから、彼らを祝福する絵を描いた。伝われば良いのだが。
彼らは私たちに大きな刺激を与え、あたたかな思いやりを示してくれた。そのことに心から感謝する。
彼らの健康と友愛を祈り、観察日記はここで終わるものとする。
青年の観察日記を読み終えた小さな伯爵は、ノートを閉じて「楽しかったかね」と声をかけた。小さなシモンは眉を下げてほほえんだ。
「あぁ、とても。帰りの魔力を計算していなかったのにはまいったがな」
「反省しているよ」
とある日のこと、城での過ごし方にマンネリを感じた小さな伯爵は、小さなシモンを誘って次元旅行を楽しむことにした。マグカップ型の次元移動魔導器に乗り込み、別世界へと旅立ったのだ。そこは彼らから見て巨人の自分たちが住む異世界だった。次元移動に成功したはいいが、魔導器に残る魔力はごくわずかなものとなり、小さな伯爵は途方に暮れた。計算よりも大幅に魔力を消耗してしまい、元の世界へ帰るぶんが不足してしまったのだ。
不幸中の幸いで、着いた先は安全かつ豊潤な魔力が宿る伯爵の私室だった。しかもこの世界の自分たちはこちらと同じく気心が通じている。ふたりは伯爵の保護下のもと、月の魔力を蓄えやすいあの窓辺で一週間を過ごすことにした。月の光には魔力がある。その魔力を小さな伯爵が媒介することによって失われた魔力をマグに充填しようと考えたのだ。よって小さな伯爵は滞在中のほとんどをマグの中で過ごし、小さなシモンも彼を放っておけず、暑い日も寒い日もマグの中にいることになった。魔力を集めるためには月光が射す窓辺にマグを置かなくてはならず、小さな伯爵はマグを移動させようとした伯爵に断固とした抵抗を見せた。小さなシモンは大きな伯爵と同じように観察日記をつけることにした。異世界の自分たちはどんな友愛を育んでいるのか興味を覚えたからだ。小さな伯爵はといえば、せっかく別世界に来たのに、どこへも行けないことに不満を感じていたが、小さなシモンと愛し合い、異世界の自分たちの燃え上がる姿を見たら、退屈や焦燥もどこかへ行った。大きさや言葉が違う世界でも、自分たちがわかりあい、愛し合っている。こんな感動を覚えたのは初めてのことだったのである。
一週間が経つ頃、魔力は無事にマグに充填された。別れの言葉を覚えるには充分な期間だった。寝ている彼らに置き手紙を残して、小さな伯爵と小さなシモンは元の世界へ帰ることにしたのだった。
「さみしがっているかな、私たちは」
小さなシモンは一週間ぶんの観察日記を読み返しながらそっと呟いた。
小さな伯爵は口髭をなぞり、異空間の空を眺めながらこんなことを言った。
「それはもうさみしがっているだろうさ。だからまた遊びにこよう。今度は充分な魔力を蓄えて」
そしてまた燃え上がろうな。小さな伯爵は小さなシモンの手をやわらかく握った。小さなシモンは頭を肩に寄せて、手を握り返した。ノートがぱらぱらとめくれて写真のような絵が浮かび上がる。寄り添う姿は思い出となってノートに宿り、ふたりの愛の記録として幾百年も大切に残されるのだった。
終
15/05/23(土)
シュノーケル型の魔導器があるならマグカップ型の魔導器があっても良いと思いまして。一度はマグドラシモで話を書きたかったので(蓮さんの描いたふたりからイメージを膨らませて頂きました)拙いながらもかたちにしました。
あ、シモンさんの観察日記は一週間全部(シモンさんが)書いています。ちょっと省略しました。
そしてシモンさんが描いたメデューサは初代をモデルにしたならあの描き方で問題ないですよね。