血流

 もうじき聖夜を迎える。
 平常で過ごせるわずかな時間を惜しむようにして、古の城主と高名なる狩人が、ひとつのベッドでぬくもりを分かち合っていた。互いの体にすり寄りながら、穏やかな眠りを共にする。

 シモンが伯爵の首筋に鼻先を埋めると、それに応えるように伯爵が彼の額にキスをした。頭をなでて、青年のあたたかい部分に触れると、シモンは火照った脚を冷ますように、伯爵の脚のあいだに肌を絡めた。冷たいシーツよりも心地よい肌触り。

「シモン」「ん」「ずっとこうしていような」「うん。ずっと」

 ふたりは半身を眠りの内に置きながら、くすくすと笑みを転ばせていた。
 柱時計が鳴った。ぬくぬくとした時間が破られたのはその時だった。

 シモンはぱっちりと目を覚まし、ぬくもりに満ちたベッドからためらうことなく起き上がった。まるで湯船から上がるようなさっぱりとした態度だった。
 伯爵は面食らい、突然寒い空気を入れた青年を引き留めようとしたが、シモンはそれにかまうことなくガウンを取り、すたすたと窓のほうへ歩んでいった。
 肌を覆い、髪を整え、星の見える位置にひざまずく。そして彼は祈り始めた。祈りを捧げる時間になったのだ。

 伯爵は顔中にしわを寄せてむすくれた。
 朝に祈りを捧げる習慣は知っていたが、なにも甘い時間を破ってまでそれを遂行しなくてもよいではないか。
 直前の言葉を完全に裏切った行為に対して、伯爵は咎める口調でこう言った。

「もうすぐ会えなくなるというのに」

 シモンの肩がぴくりとしたが、彼は祈りをやめることはなかった。
 青年が祈るのは伯爵の安らぎであり、魔王を討ち果たした際の鎮魂と浄化を願ってのことだ。邪悪な祈りに惑わされないよう、彼は清らかなる意思をこめて伯爵の安寧を願う。そのおかげで伯爵も毎晩快い夢を見る。敵対する立場である青年こそが伯爵の力と精神の安定に欠かせない存在であるのだが、同時にそのまっすぐさが伯爵を苛立たせた。

 あと二日で迎える聖夜は聖なる気が高まり、魔王の力を衰えさせる。
 天守の棺でこもるしかなくなる日を惜しんで甘い時を過ごしていたというのに、青年はいつもと変わらず自らの信仰を曲げずに祈りを捧げた。その背中に、伯爵は責めるような視線を送っていたが、やがてあきらめたように顔をそむけた。そして頭から毛布をかぶった。
 そういうところも尊敬に値するのだ。なにより、大切で、大好きな相手のすることなのだから、邪魔はしたくない。彼の人格を形成した大事な習慣であることを伯爵も知っているのだ。
 その衣擦れの音に、一瞬、青年の顔が曇った。が、すぐに自分の為すべきことに立ち返った。胸の痛みもいずれは消え去るだろう。

 雪は止み、三日月が静かな光を降ろしている。
 月の光に清められたような神聖な面立ちで瞳を開けたシモンは、おごそかに立ち上がり、伯爵のもとまで歩み寄った。その肩に手をやり、「さ、起きよう」と声をかけた。伯爵は無視してさらにすっぽりと上掛けをかぶった。シモンは苦笑し、伯爵の肩をゆさぶった。「一緒に風呂に入ろう。な?」

 なおもむずがる伯爵を見て、シモンは腰に両手を当てて仕方ないようにため息をついた。そして上掛けを一気に剥いだ。容赦ない寒さに対して、伯爵は不機嫌と衝撃とが入り交じった苦鳴を上げた。そんな彼の両手を取ったシモンは、「さぁ、起きた起きた」と、実に爽やかに、健やかに起床を促すのだった。

 やがて聖夜を迎えた。
 雪の降る静かな夜だった。耳がつまり、音がいつもよりはっきりと体に響く、そんな特別な日の出来事だった。

 皆でささやかなお祝いをした夜更け、各々が神聖な気持ちで部屋に戻ったあと、シモンは入浴を済ませ、髪の毛を拭きながら、窓の外を見つめていた。

 今頃彼はどうしているだろう。苦しい気持ちでいないだろうか。

 いつもの神妙な表情で彼の安寧を願ったシモンは、急に、ずくりとするような血流を感じて、細いため息をついた。それは震えていた。
 彼の肌を思い出してしまったのだ。
 ほほえみや、甘い囁きを脳裏に浮かべてしまったのだ。
 この日に頬を染めるようなことを思い返すのは危険な行為だった。

 その身に聖なる力を宿すベルモンド一族が特別強力な気に満ちあふれる今夜は、血流も体力も並々ならぬものになる。性欲も一段と増すのだ。一晩休まずに性交に耽ったとしても疲労の色など現れないに違いない。下手に自慰などを始めたら止めどきがわからなくなるに決まっているのだ。
 どくどくと早まる血流をコントロールしようと、シモンは深呼吸をして精神を落ち着けた。
 眠れば欲望も収まるだろう。そう考えてベッドに歩もうとしたとき、部屋から聞いたこともない物音がした。はっとして振り返り、シモンは音のする方へ目をやった。木琴を叩くような軽やかな音がクロゼットの奥から響いている。

 慎重に扉を開いた彼は、マントが下がるその陰に、音を鳴らす手のひらサイズの、薄い長方形の板を見つけた。
 手にとってあちこちいじると、それは中心からぱかりと開いた。折り畳まれていたところが光を放っている。さぐるようにそこを押すと、音は止み、代わりにこんな声が聞こえた。『もしもし』

 聞き覚えのある声だった。音が聞こえたところに耳を近づけると、再度『もしもし』と声がした。シモンは目を見開いた。「ヴラド?」

 確かに伯爵の声だった。『繋がったようで安心したよ』

 これは遠い未来の道具で、離れたところでも話ができる携帯電話というものでな――わたしも似たものを作ってみたんだと伯爵は言った。
 そのまま道具をいじらずに耳に当てていてくれと注意して、伯爵はふふっと笑った。

「起きていたのか?」

『天守の棺の中から話しかけているんだ。体力はないが、わたしも暇でな。君のことが気になって、部屋のあちこちにプレゼントを隠してみたんだ』

「人の留守中に部屋に忍び込んでなにをしているんだお前は」

 呆れたように言うシモンだったが、その表情にはどこか嬉しさがにじみ出ていた。
 聖夜に彼が元気でいたことを知って嬉しくならないはずがない。
 離れた場所でも声が聞けるという未知の感覚にも興奮を覚えていた。

「でも、プレゼントって」
『いい子にしていたんだろう?』

 その甘い囁きにシモンはぞくりと身を震わせた。なにかが起こりそうだった。
 君の体調も気がかりでなと伯爵は静かな口調でそう言った。
 なにもかもを知っているような意味ありげな声音だった。

『ベッドの下を調べてごらん』

 言われるままにシモンはベッドへ歩み、寝台の下を探った。
 中から赤いリボンに包まれた正方形の箱が出てきた。
 どきどきする胸で「開けていいのか」とシモンは尋ねた。
 いいよというように伯爵の甘やかな声がする。

 携帯電話を肩に挟みながらシモンは箱を開けた。包み紙に覆われたその品を見て、シモンははっと目を見開いた。頬が染まる。動揺をわかっていたように、伯爵は『好きに使っていいんだよ』と声をかけた。

 それは伯爵の男根を模した張型だった。
 用途に必要なもの――おそらく潤滑剤と思われる小瓶も一緒に詰められていた。
 声を振り立てて抗議を表そうとしたが、シモンの言葉はつかえて、なにも出てこなかった。代わりに唾を飲みこむ音を向こうに聞かせてしまった。くっと笑う声がする。

『おもちゃで遊ぶのは初めてかな。教えてあげるから、裸になりなさい』

「そんな――こと、こんな日に――」

『誰も見ていないよ。知っているのはわたしと君だけだ。君は秘密が大好きだったろう? ――電話越しにも君の血流が聞こえてくるよ。わたしでよければ、君の血の逸りを鎮めてあげたいのだがな』

 いやならこのまま電話を切るといい。そう告げたあと、伯爵はなにも言わなくなった。
 シモンはこめかみに響く自分の血流に翻弄されながら考えた。
 このまま電話を切れば悪ふざけも終わるのだ。たちの悪い冗談で済ませられるのだ。この光るスイッチを押せば――。

 シモンは携帯電話を置いた。そしてもう一度唾を飲みこんだあと、ベッドから立ち上がり、下穿きを脱いだ。それで着ているものは全部だった。足を抜き、ふたたびベッドへと戻る。携帯電話を耳に当てたシモンは「あの」と小さな声で彼を呼んだ。
『いい子だ――』ぞくぞくとするような美しい声だった。

『あぁ、教える前にちょっと――位置を変えてくれないか。電波が悪いのか声が聞き取りづらくて』

「電波?」

『角度や場所によって変わるものなんだ。細かいことはおいておこうじゃないか。そうだな、君の部屋から北向きに――クロゼットの方に向きを変えてみたらどうだろう』

 シモンは言われるままにクロゼットの方に体の向きを変えた。

『あぁ、よく聞こえるよ。その状態でいてくれ』

 さぁ、張型を取り出してと囁かれた。
 シモンはずっしりと重いそのみだらな逸物を目の前にした。色も形もそっくりで、台座となりそうな睾丸まである。

『口に含んで――音を聞かせてくれ』

 ためらいながらも、シモンはゆっくりと口に含んだ。妙な味がした。舌を絡ませて、いつもしているように伯爵の張型を愛撫した。卑猥な音が電話越しに響く。

『ずいぶんと気分が乗っているじゃないか――君の膨らんだ頬が目に見えるようだよ。薄く開いた目、とろんとするまなざし。君のも同じように血がみなぎっているのかな』

 教えてくれないかと伯爵が言った。『どんなふうになっている?』

「……同じようだよ。上を向いてる」

『わたしのを挿れたい?』

「……うん」

『それじゃあゆっくりと自分のをほぐして――小瓶があるだろう? 丹念に塗りつけるんだよ。そして息遣いを聞かせておくれ』

 シモンは言われるままにとろりとしたそれを手に取った。
 膝立ちになり、肩に電話を挟んだまま、後穴に指を伸ばす。秘めやかな息遣いが漏れた。慣れた手つきなのが恥ずかしい。部屋には自分ひとりきりなのに、誰かにこの姿を見られているようだった。耳元で彼の息遣いを感じているからだろう。
 二度、三度と潤滑剤の量を増やすと、かすかなものだった水音がぐちゃぐちゃとした響きを立てて部屋に満ちた。
あぁこんな日に、自分はいったいなにをしているのだろう――しんしんと雪が降る聖夜に、シモンはひとり、みだらに尻をいじっていた。

『何本入った?』
「……二本」
『三本に増やしなさい』

 切ない息をこぼして、シモンは言われるままに指の数を三本に増やした。
 腰が浮き、シモンの陰茎がぶるんと揺れる。
 それは立派で、どくどくと脈打っていた。

『わたしのをベッドに置いて、静かに腰を下ろしなさい。体勢を変えるんじゃないよ、そのまま、そう、ゆっくりと――』

 奥まで飲み込むと、シモンは涙をこぼすようにため息をついた。

『動かして。片手は自由だろう? 乳首をいじってごらん。腰の動きを止めるんじゃないよ。あぁ、陰茎はいじらないで――触ってはいけないよ。いつものように、最初は尻の刺激だけで達するんだ。――もっと気持ち良くなりたい? 仕方がない子だ。電話を肩に挟んで、両手で乳首をいじるといい』

 浅く深く自分で突き入れながら、シモンは電話を肩で挟み、両手で乳首をいじった。その姿は滑稽で、はしたなかった。
 乳首をいじるだけでは物足りず、シモンは胸をもみ上げた。もみ上げては乳首をいじり、またもみ上げる。伯爵のくすくす笑う声が聞こえる。切ない目で、どこも見ずに、シモンは伯爵の声に耳を傾けていた。

『今はどんなことをしている?』
「……乳首を、いじってる」
『それから?』
「胸をもんで……ん、奥を、突いてる」
『身をくねらせて――腰や太腿をさすっているのかね?』
「うん……」

 愛撫が足りないように、シモンは首を傾けながら、その大きな手のひらで体中をまさぐっていた。
 体の線に沿って流れる手指は、彼の淫靡なしぐさを思い出そうとするように、肌のすみずみを滑ってゆく。
 ぶるぶると揺れる陰茎、刺激を求めるままに上下する体。
 犬のように息を継ぐも、その声がまだ官能の色に染まっていないことを聞き取った伯爵は『隣の壁を見てごらん』と囁いた。

 なにもない部屋の一角、そこの壁紙に、鮮明なある景色が映った。
 シモンははっと目を見開いた。これも留守中に張り替えたのだろうか――魔力によって好きな光景を映し出す壁紙に、ベッドの上の自分達がいた。
 それは別世界の自分達も含めた四人のみだらな姿で、三人に代わる代わるにもてあそばれるシモンの姿が映っていた。

 男茎を口に含み、手でしごき、尻に咥えて、何度も何度も精液を浴びせかけられる。飲み下すように言われればその通りにし、腰が下がると容赦なく尻を叩かれた。
 いつもの愛し方だ。
 自分自身の淫猥な姿を見せられるのもこれが初めてではない。
 しかしいつのまにこんなものを記録されていたのか、覚えがなかったシモンは、ただ呆然として、わなわなと震えながら、無意識のうちに伯爵のかたちを締め付けていた。
 恥辱はあったが、同時に、彼らの行為に妖しい興奮を覚えていた。
 自分はいったいどんなことをされているのか、その状況を捉えた映像から目を逸らせなくなってしまったのだ。

 後ろから貫かれながら大股開きに脚を抱えられたシモンは、許してと懇願する様子で頭を振っていた。他の三人はこの映像を撮っているのを知っていたのだ。真ん中に大写しになるようにシモンの秘部をさらけ出して、他のふたりが振動するマッサージ器具で青年の陰茎にそれを当てた。

 精子が飛び出してもなお執拗に鳴動を加えられたシモンは、やがて勢いよく潮を吹いた。画面に青年の透明な液体が弾け飛び、ほどなく下に伝った。
 泣き叫び、乱れる彼におもちゃの責めは止まず、青年は次に色の異なる痴液を迸らせた。小水が画面を濡らしていく。音は聞こえない。しかしたしかに笑っている三人の声が頭に響いた。そうして、画面の自分はキスをされた。
 とろけるまなざし、嬉しそうに舌を絡める自分の顔。

 三人に愛される自分の姿を見ながら、シモンは気づかぬうちに射精していた。
 きゅうとすぼまる肉壁で伯爵の張型を締め付ける。
 シモンは悲鳴を上げた。ぬるい何かが自身の尻に注がれたのだ。
 絶頂に伴い、疑似射精をする張型らしかった。

『なにを感じているのか教えてくれないかな、シモン。あえぎ声ばかりではわからないよ』

 シモンは涙を飲み込みながらふたたび腰を使った。震える手で電話を持ち、ぽつりぽつりと言葉を落とす。

「……乳首をいじってる。お前のものから液が注がれて……冷たいのに、熱くて……止められなくて……奥の、いいところをっ、突いて……」

 あっ、あっ、と濡れた声を挟みながら、シモンは尻を穿ち続けた。

『壁紙に映っている彼らはなにをしている?』
「わ、私を、愛している……」
『それだけでは説明できていないよ、シモン』
「私に……たくさんのミルクを飲ませたあと、マッサージ機を体のあちこちに当てて……ほ、放尿させて、笑い合って……」
『君はそれを”愛されている”と感じているわけだね?』

 泣き声を堪えるようにシモンは唇を引き結んだ。音もなく涙を流しながら、熟れた肉にさらなる刺激を加えている。伯爵はふふっと笑った。

『それは振動するようにもできているんだよ。今すぐ画面の中の君と同じようにしてあげようね』

 言葉の通りに、張型が震えた。
 あぁあ、と悲鳴を上げて、シモンは腰を浮かせた。が、すぐに尻を叩かれる感触を思い出したように、みずから腰を落として、奥深くに張型をくわえ込んだ。

「いや、いや、漏らしたくない」
『しているのは君だ』
「あ、そんな、ヴラド、お願い、お願いだ」

 くすくすと、壁紙の三人と同じような笑みが聞こえた。

『いいよ――漏らしなさい』

 はぁあ、と情けない声を上げて、シモンは射精した。
 気持ちよさに頭が真っ白になるようだった。
 びくびくと震えながら、続けて彼は潮を吹いた。
 射精してすぐの陰茎を刺激し続けると潮を吹く――それを知っていて、シモンは亀頭をこすり続けたのだ。痛みに耐えながら潮を吹いた彼は恍惚とした表情で天井を見上げた。尻への刺激を無くしたらきっと、開放感からおもらしができる――

 そんな状態でも声を聞きたいというように、強ばった手で、シモンは携帯電話を耳に当てていた。熱くとろけた顔が、しかし、だんだんと昏く翳っていった。『シモン――シモン?』

「ヴラド」震える声で青年は言った。「会いたいよ――お前に会いたい」

 さみしいと、泣きながらそう伝えた彼は、力をなくしてうつむいた。
 体をかがめて、張型を引き抜く。
 切なさが緊張感を生んだのか、失禁することはなかった。
 彼のいないところでしてなんになるだろう。

「おもちゃじゃなく、お前のが欲しい」

 でも無理だよなと声を落とした彼は、ふと、聞いたことのある荒い鼻息を耳にした。見ると目の前のクロゼットからその怪しい音が響いていた。
 耳をすます間もなくクロゼットの戸が勢いよく開いた。
 中からぎらぎらとした顔つきの伯爵が出てきた。

 シモンは驚きととまどいが入り交じった悲鳴を上げた。「お前、どこから」
 伯爵はその耳に当てていた携帯電話を投げ捨て、シモンのも取り上げた。

「コウモリに身を変えて中に忍んでいたんだ。もう一台のこれを隠してな」

 説明しながら、そんなことはどうでもいいと叫んだ伯爵は、シモンの身に覆い被さった。そして熱烈なキスをした。角度を変えて何度も何度も、息もできないようなくちづけを交わす。

「まったく、なんていやらしくて、かわいいことを言うんだ君は――!」

 抵抗し、非難するかと思われたが、シモンは伯爵の体に腕をまわして、彼を受け入れた。熱いくちづけを返し、性急な手つきで伯爵の服を脱がせる。

 どうしても、会いたかったのだ。
 ふたりは抱き合い、肌を重ねた。

 聖夜の影響もなく衰えを見せなかった伯爵の逸物はシモンの身を何度も貫き、互いの胸に熱い愉悦を呼び起こした。

 雪が降っている。
 寒さも感じずに炎のように燃え上がるふたりの姿を星や月から隠すように。

 ふたりは安らいだ気持ちで同じベッドの中にいた。
 伯爵の腕枕に甘えながら、シモンは彼の胸に抱かれていた。

「今年は一緒に過ごせたな」満足したように伯爵が言った。
 その一言で我に返ったように「でもなんでこんな」とシモンは顔を見上げた。そして開け放たれたクロゼットを見た。
 こほんと咳をして伯爵はぽつぽつとこう言った。

「お祈りをする君の後ろ姿を見て、少し懲らしめてやろうと思ったんだ。どうせわたしは君を抱ける力も勢いもないだろうから、おもちゃでその、いたずらをしようと」

 しかし気がつけばいつも以上に元気に求めていたと伯爵は語った。

「……変態的だし、悪いことをしたと思っている」

 言いにくいように口ごもる伯爵の胸に、シモンは仕方がないように顔を寄せた。「今さら落ち込むな」

 柱時計が鳴った。伯爵の眉はますます下がった。「今からでも祈りを」

 シモンはくすりと同じように眉を下げて笑った。もう祈りの時間は過ぎている。首筋に抱きつき、青年はこう告げた。

「朝一番に猛省を込めて捧げる――それまではこうして」

 伯爵のわがままが青年の信仰心に勝ったのだ。しかし、このことを見咎められたらどうしよう。堕落したと認められ、狩人の聖性が失われてしまったら。誰にと思ったが、彼は魔王らしくないことを口にした。

「君は悪くないからな。すべてはこのわたしのせいだからな。神であろうと聖鞭であろうと、君を責めるものがいたらこのわたしが」

 言葉はキスで奪われた。そっと唇を離したシモンは、いとしげなまなざしで伯爵を見つめた。脚をすり寄せて、うっとりと囁く。

「ヴラド」「む」「ずっとこうしていられるか?」「――あぁ。ずっと」

 そうして自分以上に信心深い魔王の気持ちに甘えながら、シモンは――伯爵の体に馬乗りになった。動揺する伯爵を嬉しそうに、まるで獲物を仕留めたかのような微笑で見下ろしている。

「お前があんまり優しいことを言うから――またこんなになってしまったじゃないか」

 あぁ、そこにあるのは猛り狂う聖なる血肉。
 生気あふるる狩人の目は神聖なる輝きに満ちて、魔王の力を絞り尽くしてしまおうと熱く潤んでいる。

 伯爵はぶるっと震えた。
 聖性みなぎるこの青年にあと幾度求められることだろう。
 貧血にも似ためまいを覚えて、伯爵はうめき声を上げた。
 古の魔王、伝説の吸血鬼は、棺でおとなしくしていなかったことを後悔するほどに、このあと散々に、聖なる一族の熱い血流に飲み込まれるのだった。

 終
 14/12/02(火)

 裏アカツイートネタをまとめた話です。
 聖夜シモンさんはいつも以上に元気に伯爵様を求めたらいいねという。
 そして変態行為もなぜかマイルドになりますね。聖夜ドラシモは良いものです。