古の悪魔城には大書庫がある。
どことは言わないが、狩人たちの侵攻には関係のない場所に、時代を超越した博大な記録が収められているのだ。
魔界は言うに及ばず人間界の書物も大量に収集している、悪魔城が誇る大図書館である。蔵書量は日に日に膨大となり、城の魔力を統治する伯爵も本の収納場所に困って”とりあえず”といったかたちの部屋を多く作るようになった。
伯爵とシモンはその急ごしらえの部屋に訪れていた。異国の風習である”ハロウィン”について記録した本を探すためである。たまたま伯爵のもとへ遊びに来たシモンは城主の捜し物を手伝うことにした。しかし彼はその部屋の雑な作りに右へ左へと首を仰いだ。階段がない。
「お前はコウモリにも竜にも変身して自由に移動できるだろうけど」
シモンは取っ掛かりがないかと尊大に並ぶ本棚を眺め回した。本の世界では力を見せることのなかった鞭移動をしようかと考えたのだ。その思いつきをやめさせようと、伯爵は部屋の一角を指で示した。金色に光る一本の棒が階を貫き固定されている。登り棒だ。
「あれは本来下り専用だが、君の腕力なら楽にのぼることができるだろう。祖先もあれより細いロープで自由自在に上り下りしていたからな」
「噂には聞いていたが」シモンは登り棒のもとへ歩み、上段を見上げた。
あの当時もこんな急ごしらえの城だったのだろうか、まぁ一夜で出現する城だものなと色々なことを考えながら棒をつかんだ。
「草摺は邪魔になるぞ。害を為す者はいないのだから外したらどうだ」
それもそうだなと思い、シモンは素直に草摺を解いた。
二階をあたってくれと頼まれて、シモンは棒を昇り始めた。
すぐに「ん」とひめやかな声が漏れた。
伯爵に聞こえることはなかったが、その声は色つややかに濡れていた。
棒が無防備な下半身を刺激して、敏感な部分をこすったのだ。
悪魔城の図書館は広く膨大だ。二階へと至る距離も長く、シモンはほねばしらを二十は積み重ねた高さをのぼらなくてはならなかった。
到達するころにはいかんともしがたい快感を自覚して、頬を赤く染めていた。
こんなことを気づかれるのは恥ずかしい。
二階に上がったシモンはしばらくその場に腰を下ろして、息を整えてから熱い刺激を抑えようとした。
まだ変化が訪れていないのを確認したあと、腰を上げたシモンに遠くから声がかけられた。伯爵が来てくれと言っている。
動揺し、棒をちらと見たが、シモンは仕方がなくその棒をつかんだ。そして唇をきゅっと引き結んで階下に滑り降りた。頭にしびれるような快感が走る。いけないこと、はしたないことに感じ入っているのを嘘だと思うように、シモンは遠ざかる階上を見上げていた。
女の子がへたりこむように棒を抱いたままその場に尻をついたシモンは、伯爵の再度の呼びかけにふらふらと起き上がった。そっと下半身を見ると、少し危うくなっていた。
「シモン」今行くと上擦った声をあげて、シモンは伯爵のもとにのろのろと歩んだ。
伯爵は得意げに一冊の本を見せた。見るとそれは目当ての本ではなく、一冊の料理本だった。古今東西のレシピが載っていて、悪魔城に点在する食料だけで一食が作れるという内容のお手軽料理本だった。
「君のところに必要だろう。ぜひ持って行きたまえ」
「あぁ」シモンはこわばった笑顔を向けた。「ありがとう」
「それでは引き続き二階を頼む」
「あの、やっぱりお前が上のほうを」
「この棚の半分まで調べたんだ。身軽な君に上段の本を頼みたいんだが――なにか問題でも」
「いや、それなら――別になんでもないんだ。わかったよ」
悪気のない言葉になにも言えなくなったシモンはもときた道を引き返した。
ごくりと唾を飲み込み、金色の棒を握る。
シモンは長い距離を再びのぼった。
やはり股間は擦れて、青年に戸惑うような快感を引き起こした。
こんなことで、いやだ――でも、気持ちいい。
階上につく頃にはすっかり息が上がり、シモンはその場にうつぶせてしまった。もう隠しようもない変化が訪れている。
本を探すどころじゃない、どこか見えないところで処理しないと――。
階下にそっと目をくばり、伯爵から死角になる部分にこそこそと隠れたシモンは、そろそろと黒の下穿きの中をのぞき込んだ。
あぁ――しっとりと濡れている。
触ろうか触るまいか逡巡しているその時に、再度あの呼び声が聞こえた。
シモンは耳を塞ぎたくなった。聞こえないふりをしてやり過ごしてしまいたい。奥のほうを調べているということにして彼の呼び声を無視してしまおう――そう思ったが、伯爵の声はしつこく、動揺する胸にやたらと大きく響いてきた。
「シモン、君が別世界に喚ばれたときのパッケージ資料があったぞ。草摺の下には本当になにも穿いていない、驚いたな」
カッとなったシモンはうるさいと一言文句を言ってやろうと決心して、やけくそのように棒を滑り降りた。頭に火花が走ったようにシモンの目が白く抜けた。そのまま棒を抱いて階下にへたりこんだシモンは、近くに迫る伯爵の足音を聞きながら為す術もなくうつむいていた。「シモン――どうした」
そうして彼に下半身の変化を見られてしまった。
涙目で振り仰ぐ自分を見て彼はなにを思ったことだろう。
頬を赤らめてその場から動けないでいる姿は――罠にかかった子ウサギのようにおいしそうに見えたに違いない。
「あぁ、いけない子だ、シモン」伯爵は抑揚をつけながらそう言った。
なにが起こったのかを明確に理解したその目は濡れ光り、青年をいたぶろうとほほえんでいた。「ちゃんと見せなさい。脚を広げて、その恥ずかしい部分をわたしに――」
動かないままでいると、叱りつけるように本が重々しく投げ捨てられた。びくりと体が震える。
「簡単な頼み事ひとつこなせないなんて君はなんて出来の悪い子なのだろう。おまけに言うことも聞かないで。いいだろう、そのままそこにへたりこんでいるといい。誰にも慰められずにそこにそうやっていたまえ、わたしは本を探す作業に戻るから」
あ、と弱々しく、すがるように伯爵の顔を見てしまった。
目が合ったとき、シモンはどうするべきかを悟った。
顔を見ないように目線をそらし、そろそろと脚を広げて、その恥ずかしい部位を伯爵に見せた。黒い布地を張り詰めさせて、先端を色濃くしている幼い反応を、包み隠さずに。
伯爵はふふと笑った。衣擦れの音も高貴に、品良くその場に膝をつく。
「どうしてそんな反応を覚えてしまったのかね?」
シモンはちらりとすねるように金色に光る棒を見た。
「棒をのぼっていたら、股間が擦れて……その、気持ち良くなって……」
ふふ、ふふふと、その素直さを褒めるように、伯爵はほほえみながらシモンの頬を触った。びくりと震えるも、シモンはその感触を心地よく思いながら、おとなしく撫でられていた。
「実はね、行事について簡単なことはすでにわかっているんだ。確認のために本を探していたのだがね。まずやることと言えば大きなカボチャをくりぬいてジャックランタン――ランタン持ちの男を作るんだが、あいにく我が城にカボチャは生えていなくてな。困っていたのだが、ふむ、少し工夫をすればそれに近いものが作れるかもな」
いけない反応をしたのはわかっているね? と伯爵は尋ねた。
シモンはこくりとうなずいた。早くこのうずきをどうにかしてほしくて従順な反応を見せたのだ。もったいぶったやり方に少し苛ついてもいた。どうせいやらしいことをするのだろう、わかっているんだ――涙目で怒った顔を見せると、伯爵はそれをたしなめるようにシモンの体を抱き寄せた。
自身の膝にうつぶせにさせて、戸惑う青年の尻をめくる。
「あっ、いや――」わかってはいたが、素肌に冷たい空気が触れるとやはり動揺した。「やめてくれ、こんなところで――」
「色味が足りないな」伯爵はシモンの言い分を無視してその大きな尻を撫でた。やわらかい感触に青年の肌がぞくっと粟立つ。
「ジャックの顔を彫るためのカボチャは実に明るい橙色をしているのだよ。まるで火が灯ったような見事な赤みが差していてな――」
言うなり、伯爵はシモンの尻を平手でぱぁんと叩いた。
むきだしの尻が震えて、シモンは痛みに耐えるように口端から息を吸い込んだ。ばか、ばか、なんてことを――。
抵抗するようにじたばたともがくと、動くなと厳しい声が降った。しつけるように二度三度、尻をぶつ。シモンは納得いかないように必死な声で抗議した。
「誰だって股間を刺激されればあぁなるじゃないか。そんなところに私を出向かせて、つまらないことで何度も呼びだして――挙げ句の果てに尻をぶつなんてひどいぞ」
「君の祖先は昇降ひとつに股間を膨らませたりはしなかった。たとえロープが棒であってもベルモンド家の狩人がそんな反応をいちいち取るものか。君は祖先の名に泥を塗ったのだぞ。子供のようにはしたない感情を覚えた君は黙って恥を知るべきだ。カボチャの代わりにその大きな尻を差し出すがいい」
内心めちゃくちゃだ、責め方がいつも強引に過ぎると思ったが――祖先の名を出されてはシモンは黙るほかなかった。
確かに百年前も、もっと前のご先祖様も、昇降ひとつにいちいち性的な反応を取ることはなかっただろう。
そう思うと自分はほんとうに根っからのいやらしい品行の持ち主に感じられて、シモンは涙目のまま、ぐっと唇を噛んでしまうのだった。
伯爵の優しい声がかけられた。「百回だ。我慢できるね?」
シモンはうつむいた。仕置きを受け入れる態度だった。
「良い子だ。あとでたっぷりと甘いキャンディをあげるからね。上にも下にも――ミルクもきちんと飲み干すのだよ」
しんとした図書館に尻を叩く恥ずかしい音が響いている。
いち、に、さんと丁寧に、穏やかな声で回数を数える伯爵の膝の上で、シモンは確かな胸の高鳴りを覚えていた。
叩かれる音に頭がぼうっとなって、だんだんとその痛みにも快感を覚えるようになってしまった。
こうしてしつけられるのは嫌いじゃないのだ。むしろ自ら望むところがある。
誰にも甘えられない自分を子供に返してくれる彼のことを、シモンは心から愛していた。
尻をカボチャの色味に仕立ててそのあと彼はどうするつもりなのだろう。
ジャックランタンとは何者だ? カボチャをその男に近いものにするなんて、一体どうやって?
じんじんとした痛みに呼応するように前が濡れる。自身の下穿きを、伯爵の膝を汚していく。
あぁ、早くこの熱を解放してほしい――でも、もっと、思いきりぶってくれ。
百。
そろそろいいだろうと、伯爵がふふと笑った。
しつけに耐えたことを褒めるように、いい色味だと喜ぶように、シモンの尻をやさしく撫でた。
夢見る心地でいたシモンは薄く目を開いた。
痛みと快楽に濡れた瞳がかすかな光に照らされた。伯爵が魔法を使ってなにかの品を取り寄せている光だった。
伯爵は取り寄せた品でシモンの尻をするするとなぞった。
ひりついて痺れていたが、くすぐったい感触は伝わり、シモンは尻をもじもじとさせた。
「動いてはいけないよ」伯爵の声はあくまで優しく、あたたかかった。
することを終えた伯爵は指をはじいた。
とほうもない質量が背後に現れた気がして、シモンは思わずそちらを振り向いた。
あっと声を上げて、やがてみるみるうちに頬が赤く染まった。
巨大な鏡に映った自身の姿を見たのだ。
黒のインクで描かれた目鼻、そして不揃いな歯並びの、ジャックランタンの顔を描かれた自身の尻を。
それは明るい色に染まって、火を灯したように熱かった。
「魔法のインクで描いたんだ。ハロウィンが終わるまで消えない。風呂に入っても、布でこすっても、君の尻はカボチャのままだ。時々こうしてわたしの目を楽しませてくれたまえ――あぁ、わかっているとは思うが、共同風呂には入らないほうがいいぞ。皆の前で着替えをするのもよしたほうがいい」
君はわたしだけのものなのだからねと、伯爵は優しく囁いて、インクのついた絵筆を消した。
シモンはぶるぶると震えて、抑えようもない気持ちで涙をこぼした。
恥ずかしい、恥ずかしい――あぁ、こんなのはあんまりだ。
消してくれるように懇願する目を向けるも、伯爵はその思いを無視して、シモンの顎をくいと上向けさせた。
「君とわたし、どちらから頂こうか――やはりここは、子供である君にキャンディをあげなくてはね」
ちゃんと約束をしたのだから。
そう言って、伯爵は自身を取り出し、姿勢を変えて、シモンの口に男根を含ませた。
とうにたぎりきったそれは熱く、むせるほどに濃い味がした。
うぅんと声をこもらせて、シモンは涙ぐみながらそれを愛撫した。
ミルクが出るまでしっかりと舐め続けるように教えられ、シモンはそのとおりにした。
この行為が終われば尻の落書きも消してもらえるのではないか、そんな甘い考えを抱いたのだ。
従順に伯爵のものを喉の奥までくわえながら、シモンは知らずに腰をくねらせた。ふふ、と笑い声が降りた。
「あわてなくても、ちゃんとこちらにもあげるからね」
ぬるりとしたものが尻間に侵入した。いつもとは違うべとついた感触に、シモンは肛門をきゅうとすぼめた。
ジャックの口に入れられたのは蜂蜜だった。
粘度の高い音を上げて、二本、三本と増える指をしゃぶらされる。
シモンの口に伯爵のミルクが注がれた。
それでも愛撫をやめないようにと――ふたたび熱くとろける硬いキャンディにするようにと、伯爵はシモンの口を占拠し続けた。
甘さで舌がしびれても、子供の口にお菓子を入れよう。
何本ものキャンディを無理やりくわえさせられる子供の姿を思い浮かべて、シモンはぞくぞくと震えを起こした。
怖いのに、気持ちいい。もっと、もっと。
やがてふたたび伯爵の陰茎が硬さを取り戻すころ、シモンの口はようやく解放された。
伯爵はシモンを膝に抱きかかえて、「さぁ、ご褒美だ」と、ジャックの口に熱いキャンディを押し込んだ。
すべてを飲み込ませると、すすり泣くシモンの頭をよしよしと撫でた。
キスを交わし、しっかりと抱擁させるように自身の肩に腕をまわさせた。
そして背後にもう一台の巨大な鏡を出現させたのだ。
合わせ鏡にして、カボチャの尻と、みだらに屹立するとろとろのキャンディをシモン本人に見せるために。
「あぁ、あぁ、そんな――やめてくれ、お願いだ――あっ、あっ、あぁっ!」
熱いキャンディを出し入れされて、なにもわからなくなるほどに乱れたシモンは、ただそのはしたない姿に息を荒げて、腰をゆさぶりながら、何度も何度も芳醇なミルクをほとばしらせた。
一度達してもやめてはくれず、裸に剥かれたその身に狂おしいまでの甘ったるい想いを注がれた。飲み込まされた。そして全身にかけられた。
合わせ鏡には自分ひとりだけの狂乱が映り、それは打ち震えて、翻弄されて、いじめられる子供のように、ずっといたずらをされ続けるのだった。
シモンは赤い絨毯の上にうつぶせていた。
両脚をカエルのように広げた彼は、落書きをされた尻から精液を溢れさせて、時おり可愛らしく震えていた。立派な尻の、笑みを浮かべる口からは、甘さとしつこさを感じさせるような大量のミルクが泡を吹いてこぼれていた。
マシュマロのように熱くとろけた瞳は確かな喜びに浸っていた。
たっぷりとお菓子をもらった彼は最後にとびきり甘いキスを頬に受けた。
幸せな気持ちで横たわる彼の姿が、すべてのはじまりとも言える金色の棒に、小さく、きらめくように映っていた。
身を清められて、伯爵のマントを羽織るころには、シモンは正常な、むすくれた表情を取り戻していた。
肌がびりびりと痛むような怒気を前に、伯爵は縮こまってうつむくばかりで、「あのう」「そのう」と声をもにょもにょさせていた。
「つい……興が乗って……」
「何度目だその言葉」
「自分でもわからないんだが……とにかく、悪かった」
「お前の発想には呆れる」とシモンはマントの下で腕組みをしながらそう言った。「尻をカボチャに見立てるだの一物をキャンディだのと――自分で言ってて恥ずかしくなかったのか」
あぐらをかくその尻にはいまだにジャックの顔が描かれていた。
本気の魔法を使ったせいで、伯爵自身にも解くのが困難らしく、言葉どおり、ハロウィンが過ぎるまでそのままということだった。青年の怒りももっともだ。
「祖先のことまで引き合いに出して私の尻を責めて――言葉が過ぎるにもほどがあるぞ、お前がそんなに意地が悪いとは思わなかった」
「あの、わたしの発想ではなくて、模倣したというか」
なにと、ようやく振り向いたシモンに、伯爵は慌てて一冊の本を見せた。
『320P』と題された、前にも見せてもらった記憶がある、だいぶ厚い作りの薄い本――どうも同じ作者の本らしかった。
ぱらぱらとめくると、展開はまるきり同じで、赤い尻に落書きをするシーンではご丁寧にシモンがこちらを振り向いて、誰かにサービスをするように恍惚とした表情で涙を流していた。
カボチャの尻に魔女の帽子をかぶせたシーンでは『Trick or Treat』の流麗な大文字が、そして連続するコマでは上の口にも下の口にも甘いミルク味のキャンディ――すなわち伯爵の男根を味わわされるシモンの乱れた姿が描かれていた。
「魔女の帽子をかぶせるところを忘れてしまってな――できれば顔が残っているうちに写真に収めたいんだがいやなんでもないすまない怖いから睨まないでくれごめんなさい」
最終ページには怒るシモンと平謝りをする伯爵が映り、オチはなんだかんだで仲直りをしたふたりがキャンディよりも甘いキスをして、コマ下段に『Happy Halloween』の文字が――そして話は結ばれる。
はぁーーとシモンは盛大なため息をついた。
ここは悪魔城の大図書館だ。人間界の本が紛れ込むこともある。
時には薄い本と呼ばれるハードコアな同人誌が棚の上にぽんと置かれていることもあるのだろう。そしてそれを伯爵が発見することもあるのだ。それがたまたま自分達を取り扱ったR-18の本であって、ぜひともシモンにも見せたいと思うこともあり。そして自分達も同じように愛を深めたいと決心することもあるのだろう――この伯爵にはよくあることだった。
「お前はこれを読んで燃えたのか」
「うむ――燃えた。燃えに萌えた」
「言葉の意味はよくわからないが、こういう終わりにしたいのか」
「できれば――ぜひとも」
シモンは冷たい目を向けた。
伯爵が芯から凍った顔をした。
そのまま嬲るように顎からてっぺんまで見つめ続けた。
伯爵のまなざしがゆらめいた。
そこで気の毒になって、許す気になった。
シモンは本のとおりに唇にキスしようとした。
しかし途中で気が変わって唇をつぐんでうつむいてしまった。
やはり尻は痛いのだ。恥ずかしい落書きをされたのだ。
伯爵は我慢できずにシモンを抱きしめた。首筋に顔をうずめて「ごめん、ごめん――すまなかった」と泣きついた。
シモンは仕方ないように頭を寄せた。
どうしたらよいのだろう。なにか納得できるきっかけを見つけられないだろうか。
そんなことを思いながら視線をさまよわせると、あの金色に光る登り棒が見えた。
シモンはマントをぎゅっと握りしめて、片手でそれを指さした。
ほねばしら二十頭ぶんの距離をのぼりつめて、伯爵は二階に到着した。
「すぐに降りてきてくれ」と階下から声がかけられた。
伯爵は少しの汗を浮かべながらいうとおりにして登り棒を滑り降りた。
なにやら控えめな声が漏れた。
シモンよりも腕力のない伯爵は尻餅をつかないギリギリのスピードで着地した。そしてその場にへたりこんでしまった。
着地点で見上げていたシモンが棒をつかんで離れようとしない伯爵の顔をそっとのぞきこんだ。マントは自分が羽織っている。股間を隠すものはなにもない。
うつむいたまま顔を上げない伯爵を見て、シモンは「どうだった?」と声をかけた。
伯爵はうめいた。もう許してくれというようにシモンを見つめる。
シモンはにっこり笑って「あと二回上り下りしたら許すから」と容赦なく言った。
伯爵は棒にすがりながら「シモン」と懇願した。「いたずらしないでくれ」
その後、きっちり二回ぶん上り下りした伯爵に、シモンはようやく仲直りのキスをした。
それは伯爵にはことさらに苦く、ホッとするような甘さに感じられた。
終
14/10/30(木)
尻カボチャは絵描きさんが絵に描いたほうが萌えるだろうなぁと思いましたが、くだらなすぎて誰も(特にドラシモでは)やってくれそうにないので自分で話に書いちゃいました。既出ネタでしたらすみません。