真鍮が黄金のように光っている。ポール付きベッドとは驚いたが、ライドウはそんな悪趣味な輝きを見ようともせずに、石なり塩なりを部屋の隅々に置き始めた。
「なにしてるの」
「こうしないと、これから部屋ですることを見られてしまいますから」
「誰に?」
「旅宿やホテルには、そこかしこに漂うものがいるでしょう」
特別な石や塩を一定に配置することによってホテルの一室を銀楼閣のような空間にするということか。
悪魔も入ってこられない結界を当たり前のように張り巡らすこの子を見ると、俺の目も耳もひどく軽いものに思える。
事実その類には役立たずもいいところだから、せめて気も休まらぬだろうこの子を連れて気分転換をと図った。ここに来てこれだ。
「俺も気が回らないね」
どうしてという風に振り向いた。目に映るものすべてを透明に見て取るような子供の顔だった。
それから俺の腰掛けているベッドを見て、不意に申し訳なさそうな下がり眉になった。
「その、僕は」
「いや、いいよ。お前さんの落ち着くようにするといい」
うろついた眼差しが俺の横で取っ掛かりを見つけたように止まった。
「……こんなところにも結界が?」
思わず笑った。鼻先から漏れてしまったが。
「ただの真鍮。悪趣味な主柱が四本、ベッドの角にあるだけ」
……ため息まじりというのは少々やり過ぎた。傷つき、恥じ入るような横顔が視線を膝に移してもまだ消えない。
落ち着きのない沈黙がいやになるほど満ちたあと、やることを終えたライドウが「お隣、よろしいでしょうか」とうつむきがちに尋ねてきた。
煙草でも咥えたいような顔をあつらえて軽くうなずく。
音も立てずに座るライドウの肩がいつも以上に小さく思えた。
「これでもう誰にも見られない?」
「はい」
「聞かれることも?」
「ええ」
「そう」
肩を抱き寄せてふっくらと唇を押し当てた。
俺の心臓あたりに添わせる指先がいとおしく曲げられている。
くちづけからしばらくのちに心地よい沈黙が胸に落ちた。
「“これから”って言ったよな?」
囁きに唇を閉じたまま、こくりとうなずく。頬に赤みが差している。
「早くこういうことをしたくてたまらなかったんだ?」
にやにやが止まらない。見つめているこの時がどうしようもなく楽しい。
「……口が滑りました」
「『いそいそ』と言うのかねぇ。石を置くお前の背中、欲情してたよ」
腿をごく軽くつねられた。俺はちょっとの悲鳴を上げた。くすぐられたように、大げさに。
それからお互いに、くすくす、ころころ。
ライドウは猫じゃらしのようにいたずらな、やわらかい微笑みを浮かべている。
この微笑みだけで黄金よりも価値がある。
白いシーツよりもさらさらのぬくもりが感じられるだろう。
お前といられるのが嬉しいよと、悪魔に見せてもかまわない、見せつけたいような口づけを交わす。
やわらかく、やさしい、幼稚なキス。
ばかばかしくてもいいさ、これが最高。
終
07/11/05(月)