花笑みの宴・4

 伯爵が椅子から腰を上げると、蔓薔薇たちは青年から離れて、葉擦れの音を立てながら人のかたちを解いていった。元の壁の花へと戻る頃、伯爵は青年の傍らに膝をついて、蜜まみれの頬を指先でそっと撫でていた。

「かわいそうなシモン。こんなに愛されてもまだ足りないだなんて」

 埋め込まれた種子は依然芽吹いてもいないのだ。青年の闇に属する感情を糧にして花開く蔓薔薇の種子は、回春を促す紫の刺激を送り続けるだけで、成長の兆しは見られなかった。青年は浅い呼吸を繰り返し、時折小さく身をびくつかせていた。うつろなまなざしが伯爵を認めると、シモンは抱擁を求めるように腕を伸ばした。青年を満たせるのは蔓薔薇たちではなく、伯爵なのだ。彼は青年を優しく抱き、蜜まみれの顔にキスをした。

 伯爵の愛撫はどの蔓薔薇よりも労りと情熱に満ちていた。耳を甘く噛み、首筋や胸元に口づけをして、青年の肌に痕を残した。吸い付きたくてたまらなかったように乳首を食み、胸を揉み上げる。交互に左右の胸を愛撫し、乳を飲む伯爵の頭を、シモンは愛おしげに抱き寄せた。夢中になって乳を吸う伯爵の姿に戸惑いを感じていたが、同時に好きなだけ胸を楽しませてあげたくもなった。何より胸を揉まれたり、吸われたりするのが心地良い。舌先でいやらしく小刻みに乳首を舐められたり、指先できつくつままれたりもしたが、それすらも愛おしくて、シモンは伯爵の額にそっとキスを落とした。胸元へのほとんどの愛撫は慈しみと甘えによるものだった。あぁ自分はなぜ乳が出ないのか、そんなことを思いながら伯爵の頭を撫でていた。

「あぁ、ヴラド……」

 想像の中でシモンは乳を噴き上げ、伯爵の渇きを癒していた。栄養たっぷりの乳にまみれた胸で伯爵の男根を挟み、こすり上げ、その陰茎から滋養に満ちたミルクを与えられていた。お互いに与え合い、飲み尽くし、また奉仕する。シモンはみだらな妄想を働かせながら、伯爵の愛撫に感じ入っていた。

 種子によって無理やりに膨らまされたシモンの陰茎が、情感に溢れた愛撫を受けて、自然な脈動を打ち始めた。時折伯爵の腹でこすられると、陰茎は嬉しがるようにビンと跳ねた。伯爵が甘い声ごと口に含むように、シモンの逸物を咥え込む。内腿や膝の裏を撫でながら、散々に酷使された陰茎を慰めると、シモンは伯爵の頭を抱いて、耳をなぞる愛撫を返した。頬をさすり、耳の中を指先でくすぐる。伯爵は青年の戯れにふふと笑って、赤く濡れ光る亀頭にキスを落とした。竿に舌を這わせ、睾丸へと伸ばしていく。陰茎全体に新たなぬるつきを残すと、会陰を鼻先でくにくにと軽く押し上げて前立腺を刺激した。青年の感じ入る声が肌を通じて響いてくる。伯爵の舌が青年の肛門に触れた。「あっ」びくつき、身を固くする青年の反応を受けて、伯爵の微笑は一転して神妙な面持ちになった。青年の脚を押し広げて、最も酷使された部分を精査する。恥ずかしげに脚を広げた青年の肛門は、赤く腫れ上がり、ぐじゅぐじゅとした蜜が肌に染みるように付着していた。

「すまない、シモン。わたしは随分とひどいことをしてしまったね」

 興奮を促し、傷も癒やす花の蜜だが、程度が過ぎれば便利な薬も害になる。
 肉茎を二本同時に受け入れ、激しく中をかき回されて、花の蜜を大量に注がれたシモンの肛門は、蜜による回復も望めないほどの痛々しい赤みが生じており、内壁は花びらのようにめくれ上がっていた。

「こんなふうに花を咲かせたいわけではなかった。痛むかね、シモン」

 シモンは伯爵を気遣うように眉を下げた。

「少し……でも、大丈夫だから」

 あんなに苛烈な責めを受けたのに、シモンは伯爵に恨み言ひとつ言わなかった。傷つき、汚されてしまったが、今はなによりもまず伯爵のものを受け入れたい。彼が自分のしたことを認めて、謝罪したのなら、それでもう充分だった。

 伯爵は「少し時間をおくれ」と言って、シモンの内腿に両手をかけた。そのまま押し広げるかたちに大股開きの体勢を取らせると、股間に顔を埋めて、青年の肛門を舐め始めた。肌を白く覆う蜜を舐め取り、すぼまりの奥へと舌を差し入れて、残りをかき出すように中を清めていく。

「んん……っ」

 シモンはすべてを委ねる赤子のような格好で舌先の愛撫を受けていた。大股開きの恥ずかしさから片腕で顔を隠している。蜜による刺激が無くなり、なめらかな舌の感触が直に伝わってくると、触れた部位がじわりと熱くなっていくのがわかった。彼は傷ついた部位を魔力によって癒していた。舌先で触れた部分から魔力を分け与えて、疲弊した細胞を回復させている。すぼまりの内や外へとせわしなく舌先を動かして爛れを清めているのだが、それは同時にたまらない快楽をもたらして、青年の身を甘くよじらせた。

「あぁ……もう、もう大丈夫だから……あんっ……」

 伯爵の治療は丹念に続いた。すぼまりごと食むように唇全体で吸い付いたり、舌先を挿入したまま中で円を描いたり、それが男根であるかのように激しく抽送を繰り返した。肛門の皺ひとつひとつを舐めては、舌を突き入れ、中をこね上げていく。

「やぁ……ヴラド、お願い……っ」

 青年は快感に耐えきれない様子で身をのけぞらせ、治療をやめてくれるよう伯爵の頭をかき抱いた。その願いは聞き入れられることはなかった。妖しい舌の動きはますます早まり、犬よりも忠実に、いやらしく舐め上げられていく。

「ひぁ……あぁあ……気持ちいい……っ」

 青年は涙を滲ませ、愛欲に震えながら、そのたくましい体躯を熱く身悶えさせた。傷が癒えるに従って、シモンの陰茎からは、あたたかな露がとろとろとあふれ出るのだった。

 めくれ上がった花びらは元の淡い蕾に戻り、ひくひくと名残惜しそうに脈動する傷ひとつないすぼまりへと完治した。ようやく身を起こした伯爵に見つめられて、シモンは涙目でうなずいた。伯爵がゆっくりと腰を進め、治したばかりのそこへ分け入っていく。静かに息を抜くと、伯爵のものにすべてを埋められて、シモンは懐かしい圧迫感に熱い吐息を漏らした。伯爵も同じように感嘆のため息をついて、ふたりで見つめ合って微笑んだ。充足に満ちた瞬間だった。

 抱擁とキスを交わし、労る思いで動いていたが、やがてお互いに余裕がなくなったのか、腰の動きが早くなり、脚を絡ませしがみつく格好になった。より深く密着できるように、シモンが腰を浮かせて、伯爵が突き入れやすい体勢を取ると、それに応えるように、伯爵もシモンの脚を抱えて、肉のぶつかる音も激しく、抽送の速度を早めるのだった。

 シモンの尻に埋め込まれた種子は、ふたりの愛の営みを助けるように、潤滑油を分泌した。感度を高める効果もある特別な油だ。シモンの中が心地良いあまりに、種子の仕業と気がつかない伯爵は、熱い口づけを落としながら夢中で腰を動かした。

「あぁ、君の中は変わらずあたたかい。いつでもわたしを包み込んで、優しく受け入れてくれる。それに、この絡みつくようなぬるつき――まったく、なんといういやらしい尻だ」

 種子はさらに根を伸ばし、伯爵の逸物に茎を這わせて、その表面にやわらかな棘を生やした。シモンをさんざんに責め抜いた快楽を生む淫靡な棘だ。しかしそれは蔓薔薇たちのものとは大きさが異なり、表面に薄く張るほどの小さな棘だったので、密やかに行われたせいもあったのか、伯爵もシモンも異変に気づくことなく、互いの情熱の深さにひたすらに感じ入りながら、熱い性交に耽るのだった。

「ひぁ、あぁあ、お前こそっ、こんな、すごいの……っ、あぁんっ、持ってた、なんて……っ!」

 男根に絡みついた棘は、伯爵の腰の動きに合わせてシモンの内壁を快美に刮ぎ、青年に甘い悲鳴を上げさせた。伯爵の身を押しのけようとするが、力が入らず、弱々しく肩に手をかける。きつく目をつむって目尻に涙を滲ませた。

「あぁ、あ、だめだ、止めて、止めてくれ……っ、気持ちいい……っ!」

 伯爵の腰の抽送は止まらず、青年とともに快感を味わい尽くそうと、中で8の字を描いたり、上下左右にこね回したりして、様々な動きを取り始めた。男根を抜く動作に合わせて、シモンの臀部の筋肉は硬く引き締まり、肛門がぎゅうと収縮した。懇願とは裏腹のはしたない吸い付きだった。呼吸を整えようとして、伯爵の動きが緩やかになれば、自ら腰を大きくグラインドさせて、快楽が途切れないように手助けをする。「シモン、君という奴は――」嬉しい奉仕に伯爵は興奮と喜びをあらわにして、再度シモンの肛内を激しく掘り進めるのだった。

「いや、あ、あ、あ、あ、あ、あーっ、あーっ……!」

 乳首をつねられ、太腿や尻を叩かれながら、いけない子だ、はしたない子だと責められるたびに、シモンの中で何かが満たされていった。薔薇の匂いは肌に直接香水を塗りたくられたかのように強まって、シモンの意識をちかちかとさせた。止むことのない快感のなか、明滅する視界には絶えず彼の愛おしい姿が見えて、シモンはすべてを委ねて伯爵とひとつになろうとした。彼は自分を気遣い、愛し、誘惑して、興奮させたり、だましたりして、ひどく乱して、癒したりする。甘えさせ、叱りつけて、優しく見守りながら、慰めたりする。ふたりで快楽を与え合う頃には、凝り固まった思いを跡形もなく壊して、そうして全部を解き放ってくれる。この上もなく気持ちを昂ぶらせて、和らげてくれる存在だった。彼とする行為は震えるほどに気持ちが良い。

「ひあぁっ――あぁあーーっ!!」

 シモンは達して、伯爵もまた登りつめた。
 顔まで飛んだ自らの精液と、伯爵の熱いとろみを感じながら、シモンは一筋の涙を流した。脈動とともに肛門をきつく引き締めて、伯爵の精子を絞り切ると、尻の奥に根付いたそれが静かに姿を変えていった。伯爵はゆっくりと肉身を引き抜き、シモンの脱力しきった体の中心を見守った。やがて伯爵は満足したように微笑んだ。

「あぁやはり――君のここは、とても綺麗な花を咲かせるんだね、シモン」

 恥ずかしさと倒錯感から、静かに打ち震えるシモンの肛孔からは、露に濡れたばかりの美しい赤い薔薇が、見事に咲き誇っていたのだった。