シモンは尻に挿入する医療器具を試すことになった。
発端はもちろん伯爵だ。古の城に取り込まれた数多くの物品の中から、文献で読んだことのある道具を見つけたのだ。
はじめは半円の鍔がついたサーベルの柄(つか)かと思ったが、よく見るとその柄は海中生物のイルカを模していた。
白く拵えたすべすべとした質感の、10㎝ほどの小型の器具。それは間違いなくエネマグラだった。
「それで、それがなんの役に立つんだって?」
伯爵の私室でそれを見せられたシモンは、手にとってまじまじと見たが、尻に入れて使うものだと聞いて、あわててイルカから手を離した。
「未使用品だ。パッケージに入っていたからな」テーブルに放られたイルカにヒビが入っていないかと確かめながら、伯爵は使用目的を説明した。
エネマグラとは、前立腺に疾患を抱える患者が、医師の手を煩わせずに、ひとりで前立腺マッサージを行えるように開発された器具だ。効果のほどは実証済みで、初期の前立腺肥大や前立腺炎が改善されたというデータもある。
「その、前立腺とやらが悪くなるとどうなるんだ?」
「主に排尿時に困難が生じる。切れが悪くなったり、頻尿になったりするそうだ。君の体調管理のためにもこれを使ったほうがいいと思って」
「いたって健康だから必要ない」
その日はそれを試すことなくシモンは自室に戻った。
危ないところだったと一息ついたが、帰り際に渡されたおしゃれな紙袋の中身を見てげんなりした。
『気が向いたら試してみてくれ』と書かれたカードとともに、使用方法が図入りで解説された説明書と粘度のあるローション、そしてエネマグラが、きれいな箱に入っていた。
いたって健康だから――そうは言ったが、その数日後にシモンは体の調子に違和感を覚えるようになった。
連日長期戦が続いた探索のせいで、下腹部にちりりとした痛みを感じるようになったのだ。
どこで敵に襲われるかわからない状況の中では、満足に用を足すこともできない。無意識のうちに生理現象を我慢していたのだろう。
とりあえずは水分をたくさん摂って様子を見よう――そう思ってトイレを出たとき、ベッドの脇に置いてあった紙袋に目が行った。
艶のある紙袋から伯爵の言葉を思い出したが、シモンは頭を振り、汗を流そうと風呂に入った。
風呂上がりにあわててドアを開けると、伯爵が夜の挨拶もそこそこに部屋に入ってきた。ノックをするだけましになったが、基本的に来訪に対して遠慮はないのだ。
髪からしたたる滴を見た伯爵は「ちょうどいいな。シャンプーや石けんを持ってきてやったぞ」と、風呂場へずかずかと乗り込んでいった。
あぁそうかとシモンはカレンダーを見た。月末だ。伯爵は良い香りのするシャンプーや石けんなど、シモンに使わせたい消耗品を定期的に届けてくれるのだ。その際に残量はどのくらいかをチェックしていくのだが、うきうきとして新商品を置いていく彼が、その日は風呂場のドアを少し開けて「シモン」と神妙な声で青年を呼んだ。
彼の目線を追うと、シモンは神妙な雰囲気の意味を捉えて顔が真っ赤になった。
壁に掛けられたシャワーヘッドが、先端部分を外した状態で滴を垂らしていたのだ。
腸内洗浄をした形跡を見られてしまった。
「いや、その」とシモンはあわててヘッドを付け直したが、どうにもごまかしようがなかった。背後で聞こえる伯爵の温みある笑い声。「気が向いたのだね」そして肩を抱き寄せられてベッドへと誘われた。
「あぁよかった、この日に出向いて」
伯爵は不思議と手慣れた様子でエネマグラにローションを塗っていた。
傍らには裸で横寝の姿勢を取らされたシモンが、恥ずかしそうに膝を曲げている。挿入時の基本姿勢だ。尻の中にはすでに充分な量のローションが注入されている。
ひとりでできる治療行為のはずが、さも当たり前のように伯爵主導のもと進められていた。はじめからおわりまで見届けるつもりなのだろう。今からでも帰ってくれるよう抗議しようか――そう思って顔を上げたシモンの尻に、しっとりと濡れたイルカが押し当てられた。
「いつものように力を抜くんだよ」
息を飲んだタイミングに合わせて、イルカが静かに挿入された。半分ほど入れたところで、それは飲み込まれるようにするりと奥へ入った。いつもの感覚だ。会陰(えいん)部分を刺激する足と持ち手を残して、イルカはすっぽりと腸内に収まった。
肛門が収縮すると、なにもしないでもエネマグラが前後に動き出した。
「あ」不思議な感覚にシモンはシーツを掴んだ。
肛門の締め付ける力でエネマグラはうごめき進み、腸の蠕動(ぜんどう)運動、排泄する力で押し戻される。直腸の圧迫感に呼応して肛門が締まると、ふたたび奥に進み、前立腺がこすられていく……。
わずかな力でくにゅくにゅと出し入れを繰り返す白いイルカ。突き入れる動きのたびに睾丸と肛門のあいだを丸い足で指圧する。そのリズミカルな動作を見て伯爵は感心したように呟いた。
「ほう。よくできているな。君の肛門と腸の動きが丸わかりだ」
「おかしなことを言うな!」
「見たままを言っているんだが……。まぁいい、まずはそのまま10分以上続けてみよう。イルカと足の部分で、内と外から前立腺を刺激するんだ」
怒鳴っているあいだもくにゅくにゅと動き続けるイルカの様子を見て、伯爵のまなざしは興味深げに輝いた。おもちゃを楽しんでいるような表情だ。口髭を膨らませながら、ゆかいな気持ちで説明する。
睾丸と肛門のあいだ、つまり会陰部分をエネマグラの足で押すことによって、外からも前立腺がマッサージされるらしい。内側からはイルカがつついてくれている。日々の生活のあいだにため込まれた余計な前立腺液が、前後運動の刺激によって鈴口からあふれ出してくるだろうと。
「肛門括約筋と腸の動きだけで刺激されるから、君は特別なにもしなくていいが――慣れてきたら自分で動きを加えてみてもいいかもな。ずっとその姿勢だとつらいだろう? 体勢を変えたり、腰を揺すって好いところに当てるのもいいかもしれん」
「好いところって――」
「いつもわたしに愛されている部分だよ。そこを刺激しているんだが、気がつかなかったかね?」
頬を染めながらも、シモンは言われたとおりに体勢を変えた。緊張と恥ずかしさで凝り固まった横寝の姿勢を変えたかったのだ。
とりあえずは彼に出し入れの動きを見られないような位置に――そう思って向きを変えても、伯爵がのぞきこんでくるから無駄だった。妥協したシモンは、彼から四つん這いが横向きに見える位置に体勢を変えて、尻をやや高く上げた。
うつむき、シーツを掴む姿勢で、ゆっくりと腰を揺らめかす。
いつも愛されているところが良い角度で当たり、シモンは熱っぽいため息をついた。
たまに肛門を締めると動きに変化が出て、緩急がつく。それが少し気持ち良くて、シモンは瞳をとじて、エネマグラの動きに集中した。人為的でも機械的でもなく、あくまで自分の筋肉の動きで刺激が与えられることに不思議な心地よさを味わった。猫のように伸びをしては、切なげに身をくねらせて、腰をまわす。尻を八の字に揺すったり、脚をカエルのように開いたり、感じるままに髪を打ち振るわせては、腕に力を入れて、胸を反る。
惚れ惚れとするような健美な肉体を、深く静かな呼吸で、情熱的に息づかせた。尻を見なければ、誰もを陶酔させる舞踏のように感じられるだろう。ひとりの世界に没入する表情はあたたかな官能に満ちていた。
熱い息とともに、濡れた声は自然と口から漏れ出した。
「はぁ――あ、ふぅっん……」
揺らめかす腰の動きと、意思なく前後に反復する白い突起。
切ないため息がこぼれるのを聞いて、ふと顔を上げると、黙って見ていた伯爵の股間が大きく天を突いていた。
どうしよう――治療のためだったのに、彼を興奮させてしまったようだ。
そういう自分のも彼と同じように上向いているのだけれど……。
「ヴラド――くつろげたらどうだ」
「そうしたところで――」
「いいよ。手と口は空いてる」
扇情的に乱れた髪の毛と、そこから覗く美しい流し目。ぞくぞくと身を震わせながら、伯爵は急いで自身をくつろげた。
むき出されたそれにシモンがにじりより、口に含む。
奥まで飲み込んではぬらりと舐め上げ、手でしごきながら、睾丸を吸い上げる。青年も口寂しかったのだ。いとおしげに口淫をくわえながら、シモンは腰を揺らめかした。
うっすらと窓に映るシモンの尻。
なまめかしく揺れる大きな尻の中心では、白いイルカが一定の動きで出し入れを繰り返している。
伯爵は熱いため息を震わせた。少し恥ずかしい姿が見られれば嬉しいと思ったのに、気がつけば青年の愛撫を受け、淫らな光景を目にしている。いつも期待以上のことをしてくれるのだ、この青年は――。
感極まった伯爵はシモンの頭を引きはがし、その美しい顔に熱情をぶちまけた。
たっぷりと汚したあと、まだ勢いの残る逸物で顔中に精液をなすりつけた。
顔から離れたそれを名残惜しそうに見つめたシモンは、清めるため、当たり前のようにもう一度口に含んだ。
鈴口に残る熱情を吸い上げ、白く汚れた肉身に舌を這わせる。どこまでも丁寧な愛撫が伯爵を嬉しがらせた。
ふと窓を見ると、シモンは自身の陰茎に手を伸ばそうとしていた。昂ぶりを慰めようとしたのだろう。
「あぁ、いけないよシモン」伯爵は青年の肩を軽く抱いて、自身を扱くのをやめさせた。
「射精したら肛門がきつく締まって動きに支障をきたすんだ。苦しいだろうけど我慢して――大丈夫、君をほうってはおかないから」
体勢を変えようと、伯爵はシモンを抱き起こし、膝立ちにさせた。後ろから抱いて、唇や首筋にキスをする。
両脇からゆっくりと胸をもみ上げる手に、青年の手が重ねられた。
吸い付くような口づけを交わしながら、シモンは自ら胸をもみ上げ、腰をくねらせた。
あたたかな抱擁を繰り返しながら、互いに瞳をとじて感じ入る。
痛いほどに張り詰めた陰茎が淫らに揺れて、時折ピクンピクンと弾かれるように反りを打った。
今も繰り返す尻をこねられる動きに、シモンはびくびくと身を震わせながら、苦しげに伯爵に告白した。
「ずっと突き上げられているんだ――刺激を受け続けているけど、ほんとにこれで、いいのかな」
「それでいいんだ。きっと君の体は今以上に健康になることだろう。ほら、よけいなものも溢れ出て、君のがこんなに濡れそぼっている」
伯爵はシモンの陰茎に手を伸ばし、指先でさわさわと撫で上げた。
あまりほうっておかれるのも辛いだろうと、射精には至らない絶妙な愛撫を重ねていく。
もどかしげに身をくねらせるシモンの尻の合間に、伯爵の逸物がこすりつけられた。射精からまったく勢いが衰えていない。腰や太ももを撫でさすり、舌を舌でくすぐりながら、伯爵は自身を尻の合間に押しつけ、こすっていた。
もどかしい気持ちは伯爵も同じだった。
ふたりのあいだを邪魔立てするこんなものは今すぐにでも抜き取ってやりたいが、青年の乱れる様をもっと見てみたいという思いもあった。
窓には今も胸をもみしだき、ぴくぴくと陰茎を震わせるいやらしい姿が映っている。そして中には白いイルカが――。
彼を満たしているのは自身ではない。憎らしい気持ちで、伯爵はシモンの乳首をつねり上げた。
「あんっ!」顔をのけぞらせてシモンは甘い悲鳴を上げた。
肛門をきつくすぼませるのは負担になるのに、伯爵はなおも乳首をねじ上げ、こね上げて、シモンの連動する部位を刺激した。青年は乳首をいじられると肛門がきつくすぼまってしまうのだ。
伯爵が乳首をつねるたびに、シモンの陰茎はびくんびくんと天を突き上げ、そのはしたなさがまた伯爵を興奮させた。
いつまでも続く乳首への責めに、シモンは涙を浮かべて懇願した。
「や、いや、んん、ヴラド、あんっ」
「シモン、あぁなんと悩ましい。無理やりにでもわたしの熱を君にねじ入れてしまおうか。君の好いところをふたつのもので刺激すれば、きっと今よりも血色が良くなることだろうに」
彼のさみしさをわかっていたので、シモンは膝をとじ、伯爵の逸物を太ももに誘った。太ももに挟んで慰めてあげようと思ったのだ。
導かれるまま股間に挟まれ、シモンの睾丸を下からこすり上げるようにしても、伯爵は満足できなかった。
執拗に乳首をこね上げて、シモンに甘い悲鳴を上げさせる。
「あ、いや、だめ、だめだったら」
腰が後ろに下がっていく。
尻と太ももを同時に受け持ち、乳首をこすられ、つねり上げられる。
首筋にはキスの雨、彼の腕をまさぐって、腰を抱いて、身をくねらせて――どの動きにも呼応して、白いイルカが内奥をついばんでいく。
「あぁ、ヴラド、ヴラド――!」
乳首を押しつぶされたとき、今までにない快感の波がシモンを襲った。
大きく体をのけぞらせ、びくびくと肌を打ち震わせる。
とろけたように恍惚と見開かれた瞳、しかし張りつめた陰茎はそのままで、白い熱情を溢れさせてはいない。
何度も愛し合ってきたふたりはなにが起こったのかを理解した。
ドライオーガズム――渇いた絶頂を迎えたのだ。
快感に耐えきれずにシモンは四つん這いになった。
伯爵は寄り添うように追って、シモンの耳に囁きかける。
「もっとお尻を振ってごらん、シモン。君の好いところに当たるように」
なかば操られるように、しかし確かに自分の意思で、シモンは腰を揺らめかした。
一度達した体は簡単に二度目の乾いた絶頂を迎えた。
「あ――あぁっ、あぁーーっ」
全身の毛穴が開くような感覚。あまりにも好くてシモンは涙を流した。
「もっと」会陰部分が刺激される。三度目の絶頂。「もっと早めて」四度目。がくがくと脚が震える。振り乱す髪と朱に染まる体。泣き乱れる顔は絶え間ない快楽によって打ち震えている。「もっと深く――小刻みに、そう、休めてはいけないよ」五度、六度――何度絶頂を迎えても精液は溢れ出ることなく、ただひたすらに快感が続いていく。
「あーーっ、あぁ、いや――ひぃぃ、やだ、もういくのやだ、ヴラド、たすけて」
涙とよだれで顔中を汚しながら、シモンは器具を抜いてくれるよう懇願した。
この医療器具にはこんな作用をもたらす側面もあったのだ。
普段から愛し合うために使い込まれた部分を刺激すれば、快楽の花が咲き乱れることもあるだろう。
お互いに興奮しあって愛撫を重ねていれば、なおさらその道は近くなることだろう。
ドライオーガズムをもたらすエネマグラは、射精によって終わることのない、無限の快楽を生み出すのだ。
シモンはもちろん、伯爵も知らないことだった。
こんなに彼を狂わせて――少しの嫉妬まじりに、伯爵はエネマグラを引き抜いた。
そしてシモンを仰向けにさせて、その身に自らの欲望を突き入れた。
「はぁ――あぁ、あ――」
涙を吸い上げ、頬や首筋にキスをしながら伯爵は尋ねた。
「――いやかね?」
快楽の電気信号に翻弄されていたシモンは、伯爵のぬくもりと、愛が込められた囁きで、徐々に正気を取り戻していった。
見つめ合うと安堵感から新たな涙がこぼれた。ふるりと首を振って、シモンは答える。
「いやじゃ、ない」
青年は待ちかねていたように腕をまわし、伯爵を抱き寄せてキスをした。
あの器具よりも快くしてやろうと、伯爵は情熱的に突き入れた。
様々に動きを加えて、青年の内を塗り替えていく。
快楽の名残かもしれないが、伯爵の思いを内奥で受け止めるたびに、シモンは涙を流して感じ入り、情愛に満ちた桃色の声を上げた。
「あ、そこ、そこ好い、ヴラドの、いいっ」
「シモン、君の中にいていいのはわたしだけだ。わたしだけを感じてくれ」
「もっと、もっと来て、激しくしてくれ――!」
シモンは両脚でしがみつき、はしたなくねだった。
思いに応えて、伯爵も深く突き入れた。
乳首を吸い上げ、太ももを撫でさすり、幾人もの自分に愛撫されているように、シモンの全身を愛し上げた。
青年は嬉しさのあまり泣きじゃくって、身悶えながら彼を求めた。「ヴラド、あぁん、ヴラド――気持ちいいよぅ」
高みへと登りつめようとするときに、ふたりは手指を絡ませてシモンの陰茎を扱いた。
ふたりは同時に絶頂を迎えた。指に、尻の中に、白い熱情を迸らせる。
伯爵はキスで唇を塞いだ。
シモンは伯爵の首に腕をまわした。
伯爵はたくましい首筋に顔をうずめて、青年の熱く激しい呼吸音に耳を傾けた。
ふーっ、ふーっと肌を湿らせる、獣のような息づかいがどうしようもなくいとおしい。彼は良さのあまり泣いている――。
鼻をすする音で少しの嗜虐心が刺激された伯爵は、薄い笑みを浮かべてこう囁いた。
「君があの器具でいった回数を挑みたいといったら、さすがにいやかな」
少し脅かしたいだけだった。
思ったとおり、囁いたときはビクッとしたが、次第にシモンの目は熱に浮かされたように甘く優しくとろけていった。
愛に満ちたまなざしでこう囁く。
「嬉しいよ、ヴラド」
とまどう間もなく体を引き寄せられて、シモン主導のもと、第二戦目が開始された。
伯爵とシモンは丸々一日を眠りこけて、風呂で身を清めたあと、ようやく本が読めるくらいにまで回復した。
ふたりはベッドに横たわりながら、エネマグラについて詳細が書かれた本に目を通していた。
魔法で取り出した本には、エネマグラが世に広まりを見せた実際の理由が書かれてあった。
医師の手を煩わせることのない前立腺疾患の治療に確かな成果を上げていたが、それ以上に、偶然による副産物のほうに人々の興味を集めてしまったのだ。
前立腺を刺激することによって射精を伴わない絶頂感を無限に得ることができる――それはあまりにも魅惑的な噂であり、嘘偽りのない真実だった。
未知の快楽を追い求めて、日々挑戦しては、そのレベルに到達できずに、長年求道する男たち――。
人々の欲望が詰まったおそるべき本だったが、それ以上に気になることがあり、シモンは眉をしかめた。
その理由とは、つまり。
「嘘だ。長年だなんてそんな」
あんなにすぐ気持ちよくなったのに。
そう呟くシモンに、伯爵は本をとじてこう伝えた。
「君のように開発された体でなくては難しいと思うぞ。初回で絶頂を迎えるなど、ファンタジーもいいところだ」
「そうかなぁ」
腕を組んで考え込むシモンの肩を抱いて、伯爵はちゅっちゅとついばむようにキスをした。そして気になっていたことを尋ねた。下の具合は良くなったかと。
「そんなすぐに効果がわかるわけないだろう」
あきれたように言うシモンに、伯爵は「そうか、まだ効果が現れていないか」とわざとらしく言った。そしてちょっかいをかけるように、青年の肘を指先でつつき、囁きかけた。
「なんだったらまた手伝ってもいいぞ。じっくりと君の乱れる様を見て楽しみたいのでな」
どうしてもよくならないようだったらわたしの出番だ。もっと激しく愛し合って、君に気持ち良くおもらしをさせよう。なぁに恥ずかしがることは――。
肘打ちをして伯爵に低い呻き声を上げさせた。
ぐぅと唸り、脇腹を押さえてうつむく伯爵を見て、シモンはふっとため息をついた。
考えてみれば、横で呻いている彼には、この器具で刺激するところをいつも優しくほぐされているのだ。
あの立派な逸物で忘れる暇もないくらいに、激しく、情熱的に愛されているのだから、はじめから効果などあってないようなものだったろう。
たまたま調子が悪かっただけで、シモンはいつでもすこぶる健康なのだ。
そしてそれは彼のおかげでもあるかもしれない。
(まさかな)
わざとらしく痛がる彼の脇腹をさすりながら、シモンは苦笑まじりのキスをした。
終
16/9/20(火)
エネマグラネタです。
補足として、あのあと伯爵の宣言どおりの回数を挑みました。ふたりとも体力がありますね。
(書くことがないからってどうでもいい裏話を書く)