きっと育めるもの・5

 深夜、伯爵はなにかが顎に当たる感触で目が覚めた。こちらを蹴飛ばすような丸くあたたかい形状。手にとってよく見ると、それは年にしてはずいぶん分厚く育った少年のかかとだった。伯爵はがばと身を起こした。自分の足元に少年の頭が転がっている。シモンは上下逆さまになって眠っていた。

「なんという寝相だ」

 少年の友達が住む世界へ吸血鬼退治に行ったときもこのような寝相をしていたらしいが(伯爵は英雄たちの戦いの記録であるゲームカセットによってこのことを知った)まさか実際に見ることになるとは。あばれ寝にもほどがあるぞまったく――枕元に運ぶために体を抱き寄せようとした伯爵は、寝顔を見て、シモンの寝息が荒いことに気がついた。眉間にしわを寄せて、せっつくような呼吸をしている。苦しみ悶えるような声は妙な色に濡れていた。体内の魔力の異変を察知した伯爵は、意識を集中して、シモンの見ている夢の中へと精神を沈み込ませた。

 暗闇の中、シモンは複数の伯爵に犯されていた。
 背後から抱かれるようにして口を吸われながら、もう一人に乳首をいじられ、しゃぶられて、股間にはまた別の伯爵の顔が埋まり、幼い性器をねぶられている。内にはすでに伯爵の逸物がねじ込まれて、中を蹂躙されていた。

 体内に残るりんごの魔力がその性質を変えて少年の精神を侵したのだ。
 今現在、最も近しい人物のかたちを取り、その姿で少年を嬲ることで、心のつながりを断ち、少年の精神を屈服させ、魔力を永続的に体内に残そうとしている。夢の中の支配力は圧倒的で、少年の幼い精神力では抗しきれるものではなく、複数人であることや、状況の異常性にも関わらず、自身を犯すのは伯爵に相違ないのだという認識を少年に持たせていた。本物の伯爵ならしそうにない下劣なことをしてみせても、少年には偽者との区別がつかず、またその心には偽者という概念も存在しなかった。三人は三人ともおじ様で、自分を愛し求めている。いつもと違い、その行為にやさしさは感じられないけれど、それはなにか自分がいけないことをしたからだと思っていた。

 まわりにも大勢の伯爵がいて、全員が性器をしごきながら、順番を待つように少年を取り囲んでいた。達しを迎えた者は少年に近づき、その小さな口の中や、白い肌に精を飛ばした。口に注がれた精子をシモンは切ない思いで飲み込んだ。髪の毛に絡みついた精液を見て、少年が悲しそうな顔をする。胸をもまれ、尻をこね上げられながら、シモンは哀切に満ちた秘めやかな声を上げていた。

 夢の中は物理的な面積も曖昧で、三人に組み敷かれているのに、シモンの顔のまわりには何本もの男根が口淫をねだって、扇のように並んでいた。ひとりのを口に咥えると、耳の穴や鼻筋に残りの性器を押しつけられ、頬をぴたぴたと叩かれる。一度に三本もの男根が口を占拠し、少年の拙い口淫を受けて、同時に顔に精を放った。白い蜜に濡れた少年は、うつろな表情でそれを飲み下すと、順番を待っている他の性器に奉仕を再開した。尻には同じく二本も三本もねじ込まれて、絶え間ない突き上げののち、奥深くへと射精された。手での奉仕も強要され、少年は指を合わせることもできないような太身を両手でしごいた。腋の下や膝の裏に性器が侵入し、足の裏に男根がこすりつけられる。三人の男に全身を愛撫されながら、少年は残りのすべてを伯爵への奉仕に捧げさせられていた。

 数人の伯爵は不思議な生き物に身を変えることもあった。丸い透明な玉が連結したようなそれは伯爵の意思が宿っていて、少年の肛門に身を沈めると、中で蠢き、少年を腹の中から熱く乱した。「いや、いや」と尻を浮かせて頭を振るシモンに、人の身の伯爵はこう囁いた。「息んで出してごらん」と。「手を使ってはいけないよ。もしも破ったら今以上にきつい快楽を覚えさせてあげるからね」

 四つん這いのシモンは、震えながらおそるおそる腹に力を入れた。少年の尻に潜んでいた玉は、渾身の息みとともに先端が見え、薔薇色にめくれ上がったそこから、一玉ぶん、つるんと吐き出された。同時に、奥に潜んでいた先端の玉から、一人分の射精のような白い蜜が放出された。「ひゃ、あぁ」熱い迸りに混乱するシモンに向かい、少年を愛撫していた伯爵は肌にキスを落としながら説明した。「ひとつ出すごとにそれは達しを迎えるんだ。お礼のように君の中に放出するから、君は遠慮せずにそれを受け取りたまえ」

 二十はある玉の連なりだった。「んん、う」中での刺激をつらく感じていたシモンは、射精の感覚に怯えながらも、ひとつひとつをゆっくりと排泄していった。ウミガメの卵ほどもあるそれをつるり、ぷるりと出すごとに、少年は得も言われぬ快感を覚えて、腹を精液で膨らましていく。まわりにいる伯爵は少年の排卵ショーを笑って楽しみながら、性器をしごき、新たな白濁液をシモンの体に浴びせかけた。尻の中で二十人ぶんの射精を受けようとする頃には、少年の表情は快楽にとろけて、意識は朦朧としていった。もうすぐ終わる――最後の力を振り絞って、残り一玉をひねり出そうとしたとき、その生き物は震えて、海藻のようにゆらりとうねった。そして少年の体内に収納されるのが当たり前のように、一玉残らず、一気に尻の中へと戻ったのである。「ひぁ、あああーーっ!」

 たまらない快楽にシモンがおもらしをした。「いや、やめてぇ」腹の中で蠢き、愛を貪る刺激に、少年は身悶えた。頭や尻を振って小刻みに放尿するその姿を見て笑わない者はいなかった。「お願い、出して、抜いてください」懇願に興奮したように、まわりを取り囲む伯爵が、少年の頭から爪先へと次々に精液を浴びせかけてゆく。「君の中はよっぽど居心地が良いようだね」「もう一度息んでごらん」「わたしたちも君を愛してあげるから」

 口づけをされ、乳首を舌で転がされ、ろくに集中することもできないまま、シモンはふたたび腹に力を入れた。一玉を出すごとに射精の刺激に震え、排泄による快感を味わう。一気に十玉をひねり出したときは尻をぶたれたように連続で腰を跳ね上げさせて、それに伯爵はまたも笑いながら精液を浴びせかけた。少年ときたらまるで鉄砲のように尻から玉を吐き出して、勝手にびくびくと感じているのだ。「あんっ、ひぃっ、いやぁ」

 そして最後の一玉になったとき、それはあやしく蠢いて、ずるんと少年の尻の中に潜り込んだ。少年の精一杯の行為を踏みにじるように、元通りに奥へと埋まり、中をこね上げる。もはや声もなく快感に打ち震える少年に、伯爵達は汚辱のしるしをぶちまけた。全身を白い蜜で染め上げられたシモンは、尻を突き出した格好で、終わりのない快感に身を震わせていた。目は翳り、思考はまとまらず、今がいつかもわからない。嬲り続けられた幼い心はこのまま壊れてしまうかに見えた。不敬にも姿を借りた至高の存在がこの場に現れるまでは。

 ひとりの伯爵の頭が粉々に弾け飛んだ。少年に口淫をねだろうとして髪の毛を掴んだ者だった。頭部の爆発とともにその手は力をなくし、続けて体がちりぢりに吹き飛んだ。ざわめく伯爵達の群れに脅威の力は伝染した。握りつぶすように体がひしゃげるもの、引きちぎられるように四肢が切断されるものと、少年に愛撫をしていたものはことごとく無惨に破壊され、まわりの伯爵達も機械仕掛けの噴水のように端から順に頭部が吹き飛び、赤い泉を噴き上げた。偽者の伯爵達が抵抗する間もなく行使された力だった。激しい力は見苦しく散らばった体に働きかけ、すべてをあとかたもなく霧散させた。

 暗闇から黒外套をまとった男が現れた。その身にまとう漆黒はこの空間の下卑た暗闇とは似ても似つかぬ至高の色――気高き闇を従えた本物の伯爵だった。
 高貴な足音を響かせて、伯爵はシモンに歩み寄り、その場に静かに身を屈めた。少年の下腹部に指を添えて、奥で蠢くおぞましい生き物を手に掴む。怯えて身を縮こまらせたそれは、抵抗もなくゆっくりと引き抜かれた。「あっ、あっ、」少年に急な快楽を与えないように、一玉ずつ慎重に引き抜いたが、幼い体はむごたらしく快感に打ち震え、引き抜きとともに白い蜜を尻からぼたぼたとこぼれさせた。伯爵の表情は静かなものだった。すべて引き抜いたそれを睨み据え、一瞬の眼光で消滅させてしまうほどに、その力を精緻に振るった。恐怖と苦悶の精神を残しては少年の心にさらなる悪影響を与えてしまう。

 伯爵はやさしくシモンを抱き上げた。「もう大丈夫だよ、シモン」
 その声は穏やかで、今までに聞いたどの伯爵の声よりも愛に満ちていた。声に宿るぬくもりに導かれるように、少年の翳った瞳が伯爵を捉えた。視線が合うと、その目は現実に帰るように意識のはっきりとした光を宿した。「おじ様?」
 見つめ合ったことで少年の心に『これは悪い夢だったのだ』という思いが生まれた。今まで自分を苛んでいた伯爵達は伯爵ではなく、これは現実には起こらなかったことなのだと。

『だって目の前にいるおじ様があんなひどいことをするわけがない……』

 はっと目を覚ましたシモンは、自分がベッドの中にいることに気がついた。
 枕に頭を落ち着けて、伯爵の腕に抱かれている。そのぬくもりは夢の中の彼らみたいに、伯爵の皮をかぶったようなおかしさがない。とてもなめらかな肌触りの、安心できるものだった。
 伯爵はシモンのことをやさしく見つめていた。おでこにキスをして、小さな体を抱き寄せると、首筋に顔を埋めて、深いため息をこぼした。無事を喜ぶため息だった。

「ありがとう、おじ様」シモンは伯爵を抱きしめて、なんの濁りもない声でそう伝えた。夢のことは覚えているが、それは少年の精神に障害を残すことなく、伯爵への信頼感だけを強く深く育んだ。そして性愛への興味も。
 抱擁のぬくもりにとろりとした目で、シモンは「おじ様」と、甘く、恥ずかしげに囁いた。自分から伯爵の耳元にキスをして、太ももに脚をこすりつける。伯爵は少年と見つめ合うと、こらえていた想いを伝えるような口づけをした。
 そうしてふたりは愛し合った。夢の穢れを清めるように求め合い、何度も何度もとろけるような快楽を極めて、言葉にできない想いを交わした。

「あっ、あっ、おじ様、おじ様……」

 伯爵の背中に腕をまわしたシモンは、その熱烈な突き上げに心からの愛を込めて、腰に脚を絡めた。甘い熱に染まった瞳で伯爵に愛を囁き、達しを迎えると、まだ足りないというように頬をすり寄せ、身をよじった。

「もっとください、おじ様のでお腹をいっぱいにしたい……」

 いけない子だ、と囁きながら、伯爵は情熱に満ちたキスをした。それは愛とやさしさにあふれていて、少年の心を幸せで包んだ。
 いけない子だと言われたのに、とっても嬉しい――。
 瞳をとじたシモンは、一筋の涙をこぼして、甘い口づけに感じ入った。