古の城の図書室にて、シモンはある機械の前で顔を赤らめながら逡巡していた。
腹の上までくる高さの大型の機械。これはコピー機だ。混沌の産物である悪魔城は時代を超越した品を内に取り込み、様々な機械を近世の城に出現させた。これもそのひとつだ。台に面した部分を写し取り、用紙に印刷する機械と知って、伯爵は図書室にコピー機を設置した。
「気になる本があれば借りてもいいし、この機械で内容を写してもいい。自由に使いたまえ」
操作方法を教えてもらったシモンは、たびたび図書室に訪れては、気に入ったページを印刷して自室に持ち帰っていた。
数日前。シモンは伯爵にこんなことを頼まれた。
非常に言いにくいことなのだが、君の局部をスケッチさせてくれないかと。もちろん、裸で。
実は医療品の開発のために、下腹部の精巧な資料がいるのだと伯爵は言った。作ろうとしているのはクッションだ。映像ではなく、正確に紙に描いた、形状が把握しやすいものが良い。局部であるから図書室の本にも思ったような資料がなく、開発に苦労しているという。第一にわたしが使用するが、もしもその苦痛緩和に役立つ画期的な医療品が完成できれば、それを人の世に広めても良いと考えているのだが――。
優れた製品を生み出すためには、人体の物理的な形状を把握する必要がある。それは鎧といった武具でも、椅子といった家具でも同じこと。医療品の開発なら実際の計測に基づいた精巧な資料が必要だろう。伝説の吸血鬼といえども、体のつくりは人と似ている。玉座や椅子に座る機会が多いぶん、腰や下腹部に疾患を生じやすいのかもしれない。私でよければと、シモンは伯爵の頼みを受け入れた。
しかしスケッチはうまくいかなかった。局部を凝視した伯爵が興奮と気恥ずかしさで、まともに筆を運ぶことができなかったのだ。シモンも膝を抱え上げたはしたないポーズをすることで息が上がってしまい、ふたりはスケッチを断念した。
シモンは別の誰かに描かせることも提案したのだが、伯爵は『自分以外のやつに君の局部を見せることなど断じて許せん』と言ってきかなかった。そう言われるとシモンも見られるのをためらってしまい、この話はまた次の機会にということになった。
伯爵はシモンにガウンを着せながらこう呟いた。
一瞬で君の体を精巧に写し取れる道具があればいいのだが――。
資料が増えていないかとふたたび図書室を訪れていたシモンは、コピー機の前で顔を赤らめながら逡巡していた。
これは本の内容を一瞬で写し取れる機械だ。光が走る部分に本ではなく、自分の下腹部を乗せて作動させたら、あるいは――。
医療品の開発はあいつのためにもなるし、人の役にも立つ。なにより彼の助けになるのなら――。
シモンは草摺を解いて、まわりを見回したあと、すっと下穿きを下ろした。足を抜いて、下半身だけ裸になったあと、コピー機に手をかけて、ゆっくりと原稿台に腰を乗せた。冷たい感触にびくつきながら、尻の位置を画像入力部に合わせて、震える指でスイッチを押す。
光が走った。その緑色の閃光にシモンは息を飲んだ。尻の下をゆっくりと進む、目のくらむ感覚におかしな刺激を感じていた。誰もいない広い図書室の片隅で、静かに動作する機械の音が響いている。言い訳のしようもない格好で、本来の用途とはかけ離れた使い方をする自分を思い、シモンはひたすら、どうか誰も見ていませんようにと、鼓動が早くなった自身の胸に祈っていた。
写し出された紙にはぴっちりと閉じた厚みのある尻が印刷されていた。自身の尻肉を写した紙にものすごい羞恥を覚えながらも、この撮り方はいけないと、どこか冷静な頭でシモンは思った。肝心の局部が太ももに覆われていて、これでは資料に使えない。もっと大股開きにならないと――。
シモンは恥じらいながら、そろそろと脚を広げた。蓋を背にしたポーズで、機械を挟むように、たくましい脚を左右に割り開く。少し汚い気がするけれど、あとできちんと拭くから――心の中で誰かに言い訳をしながら、シモンは尻たぶを指で押し広げて、台に陰嚢や肛門を密接させた。
あぁ恥ずかしい。こんなところ誰にも見られたくない――。
光が走る。閃光の刺激に快感を感じていることを、シモンは今度こそ自覚した。尻肉を押さえる指が震えて、表情は次第に切なくなった。息は細く、熱をはらんでいる。吐き出された紙には自身の局部が丸写しになったものがしっかりと印刷されていた。これなら資料として大丈夫だろう。そろそろなにか身につけないと――でも、念のためということもあるし、もう一枚。
シモンは続けてコピーのスイッチを押した。尻を広げる手に力を入れて、さらに局部を密接させるように、少しずつ角度を変えて、光を浴びた。閃光が尻をなぞるたびに得も言われぬ快感が走る。首をのけぞらせて、冷たい光に感じ入る。もう一回、念のために、今度は右の尻を上げて写してみよう。シモンはスイッチに手を伸ばした。
何枚もコピーを取るうちに、最初は写し出されていた男性器が、わずかな影しか見せなくなった。あぁいけない、ちゃんと押さえないと――そっと腰を浮かせてスイッチを押す。尻が台座から離れたとたんに、光の刺激を物足りなく感じたシモンは、今度は尻がしっかりと密接するように、M字に脚を抱えてスイッチを押した。男性器は立派に勃ち上がって、光が走った瞬間に、たらりと露をこぼした。あぁ汚してしまう。でもきちんと撮らないと――。
下から光を浴びるシモンの姿は、誰が見てもはしたなく、(けれどどこか必死な様子で)いやらしい遊びに夢中になっている、いたいけな子供のようだった。
もう一枚。今度は最初と同じように、機械を脚で挟んで、隅々までしっかりと写し出そう――。
性器、陰嚢、蟻の門渡り、つぶれた尻肉に、皺もくっきりとした無毛の肛門。モノクロだが、肌の質感も鮮明に、次から次へと写し出される。
これが終わったら、今度こそやめて、服を着よう。でも、不備があったらいけないから、できるだけ角度を変えて、変化をつけて、もう一枚だけ――冷たい台の感触が気持ち良い。
用紙トレイからはあふれ出すほどのみだらなコピーが印刷されていた。その一枚がはらりと床に落ちたとき、「なにをしているのかね」と一番聞きたくなく、一番求めていた声がかけられた。はっとしてそちらを向くと、伯爵が欲情した瞳でシモンを見つめていた。途中から、もしくは最初から一部始終を見られていたのかもしれない。「あの、これは」シモンは下腹部を隠しながら、震える声で訳を言った。動揺して筋道の立っていない言葉を連ねるあいだに、伯爵はつかつかと歩み寄り、コピー用紙を一枚手に取った。肛門の皺までくっきりと映ったその卑猥な印刷物を見て、伯爵はちらりとシモンに目をやった。
「この前言っていた資料を用意してくれたのかね」
かたかたと震えながら、シモンは声もなくうなずいた。消え入りたいほどに恥ずかしい。こんなみだらな姿を見たら、幻滅するに決まっている。そのまなざしがいつ蔑む目に変わるのか、シモンは恐ろしくてたまらなかった。涙を浮かべるシモンに、伯爵はそっと笑いかけた。「わたしも資料を求めてここに来てね」そしてシモンの下腹部に顔をうずめた。
「あぁっ!」
シモンは急な快楽にのけぞった。激しく口淫する伯爵の頭に力なく手をかけて身悶える。舌でねぶり、充分に屹立させたあと、伯爵は口を離して「ほんのお礼だ」と囁いた。
「君の働きでわたしは製品開発に成功しそうだ。資料を作る際に、致し方なく熱を持ってしまったんだね。それならわたしはここを慰めてあげよう」
伯爵はコピー機のスイッチを押した。下からの刺激と、上からの愛撫に、シモンは我知らず脚を開いた。瞳をとじて、全身に光を浴びるように、台座の上で身をくねった。光が走るなか、熱烈な口淫でシモンは吐精した。達しを迎えた尻が何枚も印刷される。
甘くひくつくシモンを見上げて、「満足したかね」と伯爵は尋ねた。シモンはか細い声を上げながら震えていた。「言葉よりもこちらのほうが雄弁かな」伯爵は先ほど印刷された用紙を手に取った。目を細めて、恥じらうシモンにその用紙を見せた。くっきりと写し出された肛門に指をさす。「ここは満足していないようだな」
シモンは頬を赤らめながら目を伏せた。「どうしてほしい」と囁かれ、シモンはゆっくりと目を開けた。目線で肛門をさし、「そこに、挿れてくれ」と、震える声で伯爵に頼んだ。伯爵はシモンをコピー機から抱え上げて床に降ろした。コピー機の上でしたように、自ら尻たぶを広げさせて、そこに顔をうずめる。舌で舐められる感触を指先でも感じながら、シモンは尻穴をねぶられた。「あぁっ、あぁっ」ぬるつく指が尻から滑る。滑る端から元の位置に指を戻して、シモンはきつく肛門を引っ張った。奥まで伯爵の舌が入り込む。「お願い、お願いだ――早く挿れてくれ」
やがて衣擦れの音がして、穴に逸物が侵入した。待ち望んでいたように喘ぎ、シモンは息を抜いた。背に覆い被さる体の感触が心地よい。両手の指先を甘く握られて、シモンは尻に腰を叩きつけられた。荒く高まる息で聞かれたくないことを尋ねられる。
「このいけない指で何枚自分を撮ったのかね?」
「覚えて、ない」
「正直に答えないと動かしてあげないよ」
んん、とシモンは唇を噛みしめながら、じらされるのを嫌がるように腰をくねらせた。資料として一枚、念のためにもう一枚、失敗したのも多くて、でもあまり、見ていなくて――。
答えたぶんだけ丁寧に伯爵はシモンの内に突き入れた。突かれるうちに青年は自身の世界に入り込んだ。だんだんとはしたない気分になっていって、光を受けたときにどう感じたか、誰もいない図書室で自身を晒したときにどう思ったか、聞かれてもいないことを答えていくシモンに煽られて、伯爵も腰を進めるスピードが早まっていった。
伯爵はシモンのタンクトップをずり上げて、豊かに張り詰めた胸をもんだ。「はぁっ あんっ」かわいらしい声を上げて足腰の力を無くしていくシモンに、伯爵は胸をもみ上げながらこう囁いた。「今度はこの部分を写してみようか」
「あ、そんな――資料になんて、使わないだろう」
「関係ない。君のはしたない姿が見たいんだ。そしてその証拠を大事に取っておきたいんだよ。君の乱れた証としてね」
涙を浮かべるシモンに、伯爵はふふっと笑いかけた。
「乳首に閃光が走ったら、君はきっと尻を後ろに突き出して、よりわたしを求めるのではないかな――どれ、試してみようか」
伯爵はシモンを起き上がらせて、男根を突き入れたまま、コピー機の前まで歩ませた。「あぁ、やめて、やめて」腰を抱かれながら、内股で力無く歩んだシモンは、抵抗もむなしくコピー機の上に倒れ込んだ。そのまま機械を抱きかかえるポーズを取らされたあと、シモンは胸を台座に密接させるよう、伯爵に奥を突かれながら強制された。シモンは胸を押し当てた。乳首がつぶれて、胸全体にひやりとした感触が広がった。尻の中は今も熱い肉をいっぱいに挿れられて、しつこく、小刻みにこねられている。伯爵はスイッチを押した。
「あっ、あっ、いや――」光が走り、シモンは乳首に刺激を感じて、尻を後ろに突き出した。伯爵の言ったとおりだった。伯爵の笑い声を聞きながら、シモンは堪えきれないように泣き出した。感じ入るシモンを面白がるように、伯爵は腰文字を描きながら、何枚も何枚もみだらなコピーを撮り続けた。シモンはきつく瞳をとじて屈辱に耐えた。閃光が走るたびに体がびくつき、腰をくねらせてしまう。
「あぁ、もう撮らないで、恥ずかしいものを残さないでくれ」
「だめだめ、君はちゃんと自分のいやらしさを自覚しないと。資料とごまかして、いけない遊びに没頭していたんだろう? わたしはその遊びにつきあっているだけだよ」
コピー機で遊んでいた罰も加えなくてはねと、伯爵は腿を叩いた。呻くシモンに、伯爵は耳元で甘く囁く。
「これが済んだら君のお尻を叩いてあげる。おもらしをするくらいにうんときつく、気持ち良くしてあげるからね」
いけないお尻の穴もすっかり塞いで、ぐちゃぐちゃにかき回してあげる。わたしの熱をあふれるくらいに注ぎ込んで、君を清めてあげるから、素直にお尻を差し出すんだよ。そのあとで、もう一度、きちんとしつけられた君を写してあげようね――。
その絶対的な囁きに、シモンは身を震わせて声無く達した。甘美な懲罰を想像して、シモンはすすり泣く。最後の一枚を撮られて、伯爵の熱情が奥に注がれた。
用紙入れの棚にシモンの白い迸りがしたたっていた。伯爵は肉身を抜きながらシモンの注意をそこに向けた。
「大切な機械を君ので汚してしまったね。湿気は機械に大敵なんだ。君を気持ち良くしてくれた機械なんだから、ちゃんとお礼をするように、きれいに舐め取りなさい」
そしてシモンは言われたとおりに、精液が飛び散った部分を口で清めた。とろけた瞳で、熱を持った機械に震える舌を這わせながら。
伯爵はシモンを大事に抱え上げた。「さぁおいで、たっぷりとお仕置きをしてあげよう」
子供のように泣くシモンを、伯爵は図書室の奥へと連れて行った。やがて本棚の陰から、甘い調子の尻叩きの音が鳴り響いた。
数日後、シモンは伯爵に完成品を見せられた。それは自身の胸や尻を描いたイラストがプリントされた小さなマットだった。脚をM字に開いて、股間を見せているものもある。それらはなぜか強調された部位が膨らみを帯びていて、クッションのようにやわらかかった。
「マウスパッドと言ってな」
伯爵は自慢するようにプリントされたシモンの膨らみを指でこねあげた。その瞳はきらきらとして熱を帯びている。恥じらう表情が実にうまく描けていると伯爵は鼻息も荒く説明した。
「マウスという道具と併せて使うもので、この膨らみの部分が手首の痛みをやわらげるんだ。まぁマウスを使う大本の機械はないのだが――いやその、それはおいといて、おっぱい、おしり、そして肝心要の局部のマウスパッドが完成したぞ。すべて君のおかげだ、シモン」
局部のものはM字に開脚した状態で印刷されていて、太ももと性器がやわらかく膨らんでいた。胸も尻のやつも大写しで、なんとも扇情的な角度で盛り上がっている。どれもこれも見るのも恥ずかしい、実に淫猥な道具だった。尻や腰にあてがうものと考えて下腹部を写したのに、ありもしない機械を使うための手首を保護する道具だったなんて。医療器具とも言えない、あってもなくても関係ない、ただの趣味嗜好を反映した卑猥なアクセサリーではないか。
「私を模した意味は」
手首に当たる部分が膨らんで、クッションの役割を果たせば無地でも柄無しでも良い品だった。伯爵は気まずい雰囲気をごまかすように、こほんと咳をついてこう言った。
「未来の文献にこのようにしろと記載されていたんだ。せっかく身近にぴったりのモデルがいたんだから、デザインに取り入れない手はないと……」
堂々とした声はだんだんと自信のない声量に変わっていった。冷ややかなまなざしを受けて、伯爵はばつが悪いように両の指先をこね回した。うつむき、小さな声で気持ちを口にする。
「大好きな相手のことは、道具に模して常に身近に感じていたいものだ」
もにょもにょと言う伯爵の声を聞いて、シモンは徐々にその冷たいまなざしをやわらげていった。ふっとため息をついて今までのことを思い返す。
最初から嘘はついていない。悪趣味だけれど、少しは気持ちもわかる。恥ずかしい思いをさせられたが、自分が始めたことなのだから、彼を責めるつもりはない。なにより、あのあとたっぷりと気持ち良くさせられたのだから、この話はもう――。
「作ったものはしょうがないとして――これはお前だけが使えよ。増やして配ったり、他の誰にも見せたりするんじゃないぞ!」
コクコクとうなずく伯爵を見ながら、シモンはあきれたようにマウスパッドを触った。胸も尻も局部も感触が良く、しっとりとしてやわらかい。なによりこの恥じらう表情。本当に自分とそっくりだ――。
顔を赤らめながら無言でクッション部分をもみ続けるシモンの耳元に、こんな声が囁かれた。
「実はもっと精巧に作りたいと思っているんだ。肌の質感、ボリューム、表情などをより君に近づけた第二弾を、個人的に製作したくてね。今度は裸で、色もそっくりに写したいんだよ。君にまた協力してもらえたら嬉しいのだが――」
反省のない手つきはシモンの指先を触り、一本一本を丁寧に愛撫した。マウスパッドを握る手に指が絡みつく。シモンの見つめる前で彼の膨らみを押してはさすり、促すようにもみこんだ。伯爵の愛撫につられるように、シモンは手の中の膨らみをゆっくりともみしだいた。きっと今の自分は目の前の表情と同じ顔をしているのだろう。頬を染めながら伯爵に振り向く。色気に満ちた目と目が合った。
小さなクッションに欲情をかきたてられたシモンは、今度は裸の状態のマウスパッドを作るために、ベッドの中で協力することを、熱のこもったキスで約束するのだった。
終
15/09/21(月)