あれからも毎日毎晩、シモンは内に眠る淫らな欲望を夢の中で解放し続けた。
彼と出会うときには抵抗と話し合いを試みたが、一度性の部分に触れると、青年はたちまちのうちに陥落し、甘く深い快楽に身を投じるのだった。
「今日も来てくれなかったな」
「鞭はまだ君の手になじもうとしないのか」
「ほんとうに、このまま会えなくなるのか」
「シモン」「シモン」「シモン」……
いつかどこかで見た風景。
高く白い壁に囲われた教会、渡り廊下から見える木立、広大な居住区と緑鮮やかな草原。
薄い光が射し、痛くも寒くもない風がそよぐ。
ここは夢の中だ。吸血鬼も陽光の下を歩けるのだ。
ふたりは簡素な、清潔な服を着込み、中庭を歩いていた。
「わたしを憎もうとはしないのだな」
静かな顔つきでシモンは隣にいる彼の横顔を見た。
長い時を経たような苦悩が霧深い巌のように薄く霞みながら表情に現れていた。
「何度も君を犯した。我ながら吸血鬼の執着心が恐ろしくなるような思いで、それでも我慢できずに君に恨みと欲望を叩きつけた。いっそ聖性など失われてしまえばいいと――しかし君は――わたしが見るに君は、なにも汚れてはいなかった。日一日と輝きは増し、愛し愛されるよろこびを胸に前よりもすばらしい人間に生まれ変わるようで……」
伯爵の言うとおり――シモンの霊性はどんなに嬲られ、犯されようとも、その輝きを失ないはしなかった。
精を解放する道具は青年にとってたしかに善い方向に働いていた。
自身の欲望の新たな一面を見いだすたびに青年の神秘性には磨きがかかり、現実での生活は円滑に事が運ぶのだった。――聖鞭に関すること以外は。
「なにがいけないのだろう。わたしと心通わせたことがそもそもの間違いだったのだろうか。ほかに原因が? ――考えられぬ」
シモンは遠くにある楓の木を指さした。
あそこへ座ろうと手を引かれて、伯爵はその立派な手に引かれて木立を目指した。
こんなに強く、優しい手が、なぜ、どうして、聖鞭を扱えぬのだろう。
木蔭に座り込んだふたりは、まなざしを交わして、そっと口づけた。
伯爵の眉が下がった。ひどい痛みを与える青年はもはや自身の一部なのだ。離れたくはない。「シモン」
「お前を憎んでなどいないよ」わかりきっていることのようにシモンは答えた。そして言いにくいように首筋をさする。太くたくましい、穴の空いていない、脈打つ首筋を。
どんなに嬲ろうとも、犯そうとも、彼は吸血行為にだけは至ろうとしなかった。
夢の中でなどばかばかしいと、蔑視の目を向けられるような理由を示した青年のしぐさも、伯爵は薄く口を開いたのみで、結局はなにも言えなかった。
天守で対峙したときから、彼の崇高な生命の源はいったいどんな甘美なものであるのか、興味と執着が消えたことはなかった。
現実でないこの世界でこそ試す価値はあるのに、それだけは侵さざるべきものとして、伯爵は性交にのみ気を尽くしたのだ。
最も欲求の深いところに対して、お前は牙を向けなかったから。
あぁ、青年の倫理とはほんとうにばからしい、なんと単純な、愛すべきものなのだろう。
ふたりは風がそよぐ草原で抱き合った。
胸元をはだけたシモンの肌に優しい口づけの雨が降る。
ふたりのほかには誰もいない、陽光の射す中庭で、甘く深く愛し合う。
あのときにこうしたかったことを、ふたりは夢の中で叶えたのだ。
静かな熱い奔流を、シモンは自身の内に受け止めた。
見上げると、思いつめた表情の伯爵と目が合った。
「もう、夢の中でも会うことはあるまい」
聖鞭が扱えなくなれば、君も本の世界ではなく、元いた場所に帰ることになるだろう。
大丈夫だ、すでに使命は果たしたのだから――シモン、元気でな。
「愛している」
待て、待て、待ってくれ――このまま、こんなところで、別れるなんて。
必死に訴えるまなざしにも、伯爵は悲しげに微笑むばかり。そうして、額にキスをされた。
目覚めさせられる前に、シモンは心からの叫びを上げた。
「ヴラド、お前に会いたい!」