忘れじの詩(うた)・30

 教会のベッドで彼は目覚めた。
 ふらふらとさまよい歩いていたところを教会関係者に保護されたのだ。
 三日間、こんこんと眠り続け、ようやく話ができるまでに回復した彼を待ち受けていたのは、裁判の誤りを告げる通知と、今後彼の血筋であるベルモンド一族への援助をあらゆる面でおしまないという、佑助のしらせだった。

「裁判の、誤り……?」

「そうです」神父は当然のように、輝かしい目で彼を見つめた。「奇跡を為した貴方様が竜公と通じていたなどと誤解もはなはだしいことでした。おそらく、裁判関係者は魔王のよこしまな術を受けて、裁判の進行を誤った方向へと導かれてしまったのでしょう」

 過ちやその他、自分たちに不利益をもたらす面倒ごとは、その事象に魔王の不可思議な力が働いたとして説明がついた。人知を超えた存在が人の世に悪影響を及ぼしている。それ以外になにがあろう。
 干ばつも飢饉も天変地異も、人はすべてをそうやってしのいできた。いつか終わりを迎えるだろうこの転嫁の時代に君臨するのは、彼らの神か、それとも、畏れの対象である竜公か。

「貴方こそはもっとも高名な英雄に叙せられることになりましょうな」

 青年はしばらく黙り、ついで町の様子や被害状況を尋ねた。あれから彼が眠り続けた三日間、激しい雨が止むことはなく、町の大火は無事に鎮まったという。そして――これこそ奇跡といっていいことだが――ほとんどの住民は要塞教会に逃げ延びて、あの大爆発の犠牲者は皆無であったとも。

「明後日、総主教がおいでになられます。詳しい話を伺わせて頂くことになると思いますが、ここだけの話、わたしにそっとお聞かせ願えませんか。裁判の誤りといい、町のものの騒ぎといい、いったいなにがあなたを苦しめていたのか、その主な原因を」

 狩人の首筋からほくろのような傷跡がのぞいていた。ちりちりとした熱が走る。
 シモンは瞳をとじた。
 部屋の静けさから過去の出来事へ耳をすませるように、清虚な顔立ちを窓の外へ向け、言葉を紡ぐ。

「竜公に、呪いをかけられていました」

 外はくもり。
 本格的な冬の訪れを告げるように、枯れ木が風の射刺しにゆらめきながら、その枝ぶりを強ばらせていた。