思わぬやりとり

 古の城のバルコニーに立つふたりがいた。シモンと伯爵だ。
 同じ月を見上げる友であり、肌を重ねる愛しき相手として、心満たされる静かな時間を過ごしていた。
 その日の三日月が彼をとても美しく照らしていたので、青年は見惚れ、うつむき、やがて自身の首元に手をかけた。ヴラドとあたたかい声で名前を呼ぶ。

「これをあげるよ」

 シモンはネックレスを外して伯爵に手渡した。狼の牙で作られたシモンの大切なお守りだ。古ぼけてはいるが艶のある、狩人として力を認められた厳かな飾り。「よければ、受け取ってほしい」
 純朴な青年らしい好意の向け方だった。今すぐにあげられる大切なものをと考え、気づけばネックレスを差し出していた。しかし彼の美しい手に渡ると、その武骨さと素朴さに頬が赤くなった。彼に似つかわしくない品を贈ってしまった。顔を見ていられなくてうつむいていると、その頬がすべらかな感触に包まれた。両手でやさしく導かれた青年は、月の光と、愛を受けた。ぬくもりを分けた伯爵の唇は、まなざしと同じ誠実さでシモンにそっと告げた。「大事にする」

 それが三日前のこと。
 色味の違う別世界の夜空を見上げながら、シモンはもうひとりの自分にため息を聞かせた。「それからあまり、うまくいっていなくて」
 会う時間が減って、たまに会っても物思いに耽っているように遠くを見ている。話しかけても上の空。宝物を渡してからずっとそうだという。

「私はあいつにとって重荷になっているのだろうか」

 まぁ本来の立場を顧みればこれほど重圧のかかる相手もいまいがと、赤髪の青年はそう思った。伝説の吸血鬼とそれを狩る一族の青年。今はこうして心通じているのだから、他はどう思うか知らないが、ふたりのあいだに心配は無用だ。伯爵の反応も一時的なことで特別気にすることもないだろうと、思うままに気持ちを伝えたもうひとりのシモンは、同じく心通じたもうひとりの伯爵に同意を求めた。うむと、伯爵は青年のカップに紅茶を注ぎながらこう答えた。

「もう少し様子を見ることだ。同じ存在だからよくわかるが、なにかひとつのものに心を飛ばしてしまうのは、死神の忠言でも直らないわたしたちの癖みたいなものでな。話を聞いていないなんてよくあることだ」

「そうそう、ゲームや城の増築のことで頭がいっぱいでな」その時の様子を思い出した赤髪の青年は、ぐいとシモンに身を寄せた。「あんまり反応がないようなら強引にこちらへ振り向かせればいいのさ。こんなふうに」

 そしてシモンを振り向かせ、上向けた唇にキスしようとしたとき、思わぬ強い力で押しのけられた。顎や手首の痛みに顔をしかめた青年を見て、シモンはあわてて手を放した。「すまない。でも、やめてくれ。あいつのいないところで」

 青年は胸を押さえてうつむいた。赤髪のシモンはそんな彼の様子を、手首をふりふり、悪戯心にあふれたまなざしで見つめていた。隣の伯爵がなにかを予期した。ちょっかいをかける気だ。まったくこの青年は自分達のこととなるとやりすぎるくらいに生き生きとしだす。

「また三日後に会おう。今度はこちらから伺うよ」

 星空の下の茶会はそれでお開きになった。

 約束の三日後、赤髪の青年はもうひとりの自分の浮かない顔を見て、事態がなにも好転しなかったことを知った。
 話を聞くところによると、あのあと、 伯爵は三日間留守にしていたという。

「いつ帰ってくるかわからなくて」

 その時、私室のドアが開いた。伯爵だった。どこへ行っていたのか、髪は乱れ、衣服に少しの汚れがついている。皆をみとめた伯爵は「来ていたのか」と息をついた。
 まっすぐに本棚へと歩んだ伯爵は、心配そうな青年の視線を受け流して一冊の本を手に取った。ぱらぱらと素早くめくり、目当ての項目を探し当てる。その本を手にした伯爵は、奥のふたりに「少し席を外すが、くつろいでいてくれ」と言い残し、音もなく部屋を出ていった。

 ドアを見つめるシモンの背に「あれは熱中しているな」「いつ冷めるだろうな」と呆れた声が届く。赤髪の青年は立ち尽くすシモンの肩を抱き、 「まぁ、あっちでゆっくりしていよう」と奥へ誘った。「見せたいものがあるんだ」

 床に広げたそれはフェンリルの敷物だった。神話に語られる巨大な獣ではなく、悪魔城に住みつくまだ小さな個体の亡骸を加工したものだという。大人五人は座れるその手触りの良い毛並みに、 青年は徐々に明るい表情を取り戻していった。

「靴を脱いで楽になろう。この毛量、泳げるくらいあるんだぞ」

 そう言って赤髪の青年はブーツを脱いで敷物に寝転がった。手をかくと毛並みがうねって波のように見えた。たまらずシモンも真似をする。白くきらめくふかふかの波間に青年ふたりが戯れる様子を、もうひとりの伯爵は父親のような気持ちで眺めていた。

「お前も来いよ。脱げるだけ脱いでしまえ」赤髪のシモンはそう言って、自ら上着やベルトを外した。目で促され、シモンも金具を外す。シャツとスパッツだけになった青年たちのもとに下着姿の伯爵も加わった。

「お前ったら下着も立派だな。刺繍されてて、きらびやかで」

 脱げ脱げとふざける自分たちのきゃあきゃあとしたやりとりのあいだに、シモンはいつのまにか挟まれていた。
シャツをめくられ、下穿きに手を入れられる感触にとまどう間もなく、ふたりからキスをされた。
 困った顔をして、シモンは控えめに身をよじった。しかし肌をさする手はだんだんとあやしげな動きになって離れない。
 ふざけっこのような音立てるキスはゆっくりと、ねちっこいものに変わり、その舌先は青年の首筋や耳元を舐めた。

「ちょ、待って」

 のけぞり、身をくねらせるも、隙を見せたところにもうひとりの愛撫が伸びる。
「だめだったら、くすぐったい――あっ」胸をもまれ、腰をさすられ、頬にちゅっちゅとキスをされる。離れようにも組み伏せるかたちで脚にまたがれて自由がきかない。キスに混じり、熱っぽい吐息が絡まる。シモンはぞくっと身を震わせた。
「あんっ!」乳首をつねられた。甘い声を漏らすと同時に頭に血がのぼった。声を荒げて抵抗する。「いい加減に――あむ、んん、う」

 その抵抗も熟れたキスで塞がれ、シモンは腰から力が抜けていった。魔王と狩人、ふたりがかりの愛撫にかなうわけがない。シャツとスパッツを脱がされ、シモンは素裸になった。「やめてくれ、あいつのいないところで――」
 こんなこといけないと、シモンはふるふると頭を振った。ふたりは愛撫の手を止めずにおもしろそうに笑う。

「けなげにあいつのことを思っているんだな」
「どこまでわたしたちの愛を拒めるか試してみようじゃないか」

 左右からそれぞれに乳首を吸われ、シモンは甘い悲鳴をあげた。のけぞる顔、つっぱる両腕、がくがくと震える腰。男根を扱かれ、陰嚢をやさしくもまれる。「やめて、やめてくれ――あぁ、ヴラド」
 その声に反応したように、赤髪のシモンはかすかな空気のひりつきを感じた。気配を探ると、この場にいなかったはずの視線がどこからか注がれている。ドアだ。青年への愛撫を止めずにちらりと見ると、うっすらと開いた隙間から伯爵の金色の目が見えた。私用から帰ってきた彼が部屋から漏れる甘い声に足を止め、注意深く中の様子を覗いたのだろう。
 赤髪の青年は当初の思惑から外れたような顔でシモンへの愛撫を激しくした。乳首をつねり、舌を絡ませ、見せつけるように陰茎をしごく。

「あっ、あっ、いや、いや――ヴラドっ、ヴラドっ」

 ドアの外の伯爵は止めに入る様子がなく、ただじっとこちらを見つめている。彼の態度を見て、赤髪のシモンはふうんと冷たく目を細めた。そういうつもりならいいさ。いつまでそんなふうに見ていられるかな。
 青年に目線で合図されて、もうひとりの伯爵は魔法を使い、きらめく小瓶を取り出した。潤滑剤だ。たっぷりと手に取り、シモンの胸元に塗りつける。息を飲む彼にほほえみを向けながら、伯爵は甘く低い声で囁いた。

「だんだんと体が火照ってくるだろう。君が燃え上がるような特別な薬品が含まれているからね」

 言われたとおり、乳首からじんじんと熱をもってきた。もみあげられる最中に何度もふたりの指で弾かれた乳首が硬くしこっていく。きつく目をつむり、シモンは刺激に耐えようとした。背も腰もなでさすられて、脚は変わらずがっちりと押さえ込まれて、腕を取られた姿勢ではとても逃げられそうにない。甘く熱のこもったキスを受けると、妙な罪悪感が生まれるのか、顔を振って抵抗することもできずに、ただやめてくれるように願ってしまう。舌が絡まる。目がとろける。胸は弾みをつけるようにもみしだかれ、乳首も丹念にかわいがられた。それでもシモンの心には彼への思いが強くあった。唇を引き結び、声を立てずに目を伏せる。
 もうひとりのシモンはドアのほうをちらりと見た。伯爵は変わらずこちらを見つめている。ふふっと赤髪の青年が笑った。

「負けたよ。ちょっとふざけただけなんだ。ごめんよシモン」

 すっと身を引く青年を見て、もうひとりの伯爵も遅れて手を放した。いいのかという顔である。もうひとりのシモンはその表情にそっと目配せをした。 ドアの外の彼によく見えるように場所をゆずり、青年はやさしい声でこんなことを言った。

「どうした? 立てないのかい、シモン」

 ふたりの愛撫はシモンをすっかり腰砕けにしていた。
 しびれが残る手足、塗り薬のせいで火照った胸、そしてきつく勃ちあがった陰茎。
 望んだことではあるが、急に身を引かれたせいであちこちが悲鳴をあげるようにうずいている。
 か細く震える声を漏らしながら、シモンは放心した面持ちで体の変化をもてあましていた。

「服を着る前にそれを処理したほうがいいな」
「そうだな。早くしないと彼が来るだろう。わたしたちは手を出さないから、この場できちんと鎮めるといい」

 え、とシモンはふたりの顔を交互に見た。なにをとまどっているのと尋ねるように、ふたりは温和な笑みを浮かべていた。

「これ以上お前になにかしたらあいつに悪いよ」
「君の一途な想いはよくわかった。さ、彼が来ないうちに」

 シモンはなんとか身を起こそうとした。できなかった。わななく気持ちでふたりを見る。ほほえみを向けてはいても、彼らの表情にはやさしさがなかった。青年が自身を慰めるあいだ、顔を背けている思いやりが。見るくらいいいだろう? とその瞳は語っている。
 シモンは震える手を伸ばして、自身の陰茎をゆっくりとしごいた。自分が彼らの顔を見ないように、きゅっと目をつむって。

「あまり気乗りしないようだね、シモン」
「早くしないと彼がくるぞ」

 ふたりはくすくすと笑いながらシモンを煽った。青年のオナニーショーを楽しげに眺めながら、時々、口だけの手助けをした。

「もっと“俺たちに”良く見えるように脚を広げてごらん」
「胸や乳首への刺激も忘れずに」
「ひくついているところも今のうちにほぐしておいた方がいいんじゃないかな。あいつが来たときにすぐにひとつになれるように」

 シモンは言われたとおりに脚を開いた。胸をもみ、乳首をこねた。潤滑剤を手に取り、前から肛門に塗り込んだ。そして言われていないのに、ふたたび潤滑剤を手に伸ばして、陰茎をしごいた。
 ドアの外から丸見えになる姿で、シモンは自慰を続けた。
 ふたりに見られていてもかまわなかった。
 早く終わるように性急な力をこめてあちこちをもみ、さすり、穴をほぐして、全身をピンク色に染めながら高みへ至ろうとした。その淫らな姿にふたりは思わず唾を飲んだ。なめらかな敷物の上に横たわる美しい青年。声を立てずに口を開き、身をくねらせて、頭の中の彼を呼ぶ。求められた彼は青年をやさしく抱き、最高の愛撫を重ねる。青年の両脚を抱え上げた彼は、後ろから貫き、カウチに座りながら、悠々と性行に耽った。そこは月明かりが照らすバルコニーだ。月に肢体を晒す開放感のなか、青年は羞恥と幸福に満ちた絶頂を迎える。ある日の大切な思い出――。
 皆の視線を受けながら、自分の世界に入り込んだシモンは、ひとりベッドの上でするように、大きく全身をのけぞらせて射精した。

 吐精の瞬間にドアが激しく閉まる音がした。はっとして身を起こすと、ふたりが顔を向けたほうに、伯爵が立っていた。そのまなざしを見てシモンは凍りついた。冷たく怒り、同時に蔑む高貴な目。射精のあとの心地よい痙攣は打ち消され、恐怖のまま、シモンは知らずに頭を振った。青年は違うと訴えるまなざしを向けていた。そのまなざしを受けたまま、伯爵は静かに三人のもとに歩み寄った。

「シモン――なんとはしたない」

 その怒りは青年ひとりに向けられていた。「皆を誘惑したのだな」

 違う、違うとシモンは小さく繰り返していた。止めに入ってくれるようふたりを見たが、もうひとりの伯爵は黙り、赤髪の青年は静かにほほえんでいるばかり。そして彼はこう言った。

「そうだよ、途中までふざけていたんだがな――シモンのやつ、我慢できなかったように服を脱いで、皆の見ている前でオナニーショーを始めたんだ」

 違うと叫ぶ青年に魔法が飛んだ。伯爵が指を向けただけでシモンの腕は後ろ手に拘束された。がっちりと縄が食い込み、自力ではほどけそうにない。

「いけない手は縛りつけておこう」

 伯爵は続いて魔法を飛ばした。敷物の上にあやしく艶めく張型が現れた。

「そんなに欲しがる穴は塞いでおかなくては」

 伯爵の言葉に促されるように、もうひとりのシモンは張型に潤滑剤を塗り込めた。もうひとりの伯爵が、取り乱し、わめくシモンの両脚を抱える。 ひくつくそこに張型が押し込まれた。

「あぁっ、ぐっ」

 ほぐされたそこはいともたやすく張型を飲み込んだ。そらみろというように伯爵の冷たいまなざしが注がれる。屈辱を受けながらも、誤解を解くようにシモンはふるふると頭を振っていた。頬を染め、涙目で。
 もうひとりのシモンは異様な興奮に包まれていた。伯爵が覗いていたことは知っている。 彼もシモンの言い分が正しいことをわかっているはずだ。それでもこんな仕打ちをする彼はいったいどんなつもりでいるのか――ちらりと見上げた青年は、伯爵の目の光の凄みに、反射的に顔を伏せた。眼力が働いているのかもしれない。うかつに覗き込むのは危険だ。興奮のあまり過激なプレイに走りたくなったのかもしれないし、その気持ちはわかる。シモンのいやらしさったら――驚くほどだものな。

 両膝をつくかたちにさせられたシモンは、そのままの姿勢で、皆が脱ぐまで待たせられた。

「ヴラド、信じてくれ。こんなことになったのはわけが」

 弁明は悲鳴に変わった。強烈な振動が働いたのだ。伯爵の意思の力ひとつで震える張型は、シモンの内部をうねり、こすり、様々なリズムをつけて青年を責め立てた。

「いや、いや、あぁ」

 衣服をすべて脱いでも、伯爵は彼のもとへ近寄らなかった。遠くから青年が責めさいなまれる姿を眺めている。

「止めて、止めてくれ――あぁ、きつい、いや、お願いだヴラド、ヴラドッ!」
「よくしゃべる口だ。その口でも皆を誘惑したのかね?」
「してない、してないっ、あぁっ」

 がくがくと震える膝、刺激に反応してふたたび勃ちあがる逸物。
 伯爵の様子を見て、このままでは止めてくれず、そばへも寄ってくれないことを察知したシモンは、振動に耐えながら伯爵の次の言葉を待った。

「そのいやらしい口を皆のために使うかね?」

 皆の逸物はそそり立っている。シモンは真顔になった。まさか、口だけで全員のを?

「皆のものを鎮めるために、その口をうんと動かすかと聞いているんだ」

 これまでにない激しい振動が加わった。奥をあやしくうごめいている。声も出せないままシモンはぽかりと口を開いた。冷たいまなざしに頭が真っ白になる。かれがれの声でシモンはこう言った。

「使う、使うから――止めてくれ」

 振動が止んだ。張型のせいでへたり込むこともできないまま、シモンは最初のひとりに喉奥まで突かれた。伯爵の逸物だった。
 呻きながら奉仕するシモンと、頭をつかんで逃れらないようにする伯爵の様子を、ふたりは遠巻きに見つめていた。伯爵はそのふたりをちらりと見て 「どうした、来ないのか。君たちが来ないと息継ぎができなくてシモンが死んでしまうぞ」と声をかけた。
 ぞっと来る伯爵の言い様に、もうひとりの伯爵は気乗りしないままふたりのもとに歩み寄った。「おい」と呼び止めるもうひとりのシモンに『しかたないだろう』という目を向ける。腰が寄ると青年の頭はようやく引きはがされて、ほんの少しの息継ぎのあと、もうひとりの伯爵の逸物を咥えさせられた。伯爵は青年の頭を掴んだまま、激しいストロークを強要した。もうひとりの伯爵は素直には楽しめない快楽を得ながら、伯爵に眉をひそめた。

「手を放したらどうだ。自分のリズムでできるだろう」
 伯爵は動じないように言った。「三人揃ったらな」

 もうひとりの伯爵は困ったように赤髪の青年を見た。
 きっと君が来るまでわたしのものを咥えさせられたままだ――そんな目線を受けて、ひどく憤りながらも、赤髪の青年はシモンのもとへずんずんと歩んだ。こんな状況でもいきり立っている自身の男根を腹立たしいように見下ろしながら、シモンに腰を寄せる。涙と唾液を垂れ流しながら、シモンは窒息寸前の息継ぎをした。咳き込む暇も与えずに、伯爵は赤髪の青年のものを咥えさせた。「やめろ」 ともうひとりのシモンが伯爵に怒鳴った。思わずまっすぐに見据えたその目が恐ろしいものを見たように伏せられた。金色の瞳の中にあやしい光―― 思ったとおり、眼力を発しているな。一度は達しないと説得にも移れないかもしれない。

 伯爵の手はシモンの頭から離れた。きつく閉じた目をゆっくりと開けて、赤髪の青年はシモンの頭にやさしく両手を添えた。

「自分のペースでいいよ。ちゃんと呼吸をして――焦らずに」

 頭の拘束を解かれたシモンは、激しく咳き込んだあと、無理やりに息を整えた。いつまた急な振動が襲うかもしれない。涙と鼻水を垂らしながら、唾液まみれの口を開いて、順繰りに三人のものを咥え込んだ。息継ぎは最小限に、できるだけ喉奥まで飲み込んで――伯爵以外のふたりを浅く愛撫したとたんに、怖れていた振動を加えられたからだ。誰のも精一杯に奉仕しなくては許されない。ふたりは嫌な気分でいながらも、どこか抗えない興奮のまま、シモンの奉仕を受け続けた。
 せわしなく移動する頭、扇情的にすぼまる頬、熱い口内。
 理性はあやしい状況に飲み込まれて、ふたりもやがて順番を心待ちにするようになった。唾を飲み、なめらかな舌に感じ入る。自然と腰が動き、青年の喉奥を小刻みに突いた。彼は苦しげな顔でいるのに、解放したくないくらいに、それがどうしようもなくいやらしい。早くこの顔にべっとりと精子をかけたい。奥に注ぎ込んで、飲み下してもらいたい。髪にかけて、金色の房できれいに拭き取ったそれを、もう一度咥えてもらいたい。青年の口の中はなんとぬめらかであたたかいのだろう。

 ひとりが達した。シモンの顔に精液が迸った。手でしごいて、別のひとりを咥える彼の頬に残らずかける。シモンは頭上の荒い息を聞いた。しかし腰は離れない。順番を待つようにそこにいる。シモンはしばらくのちに、再度彼のものを咥え込んだ。また勃ちあがっていたからだ。

 もうひとりも達した。喉の奥で長々と射精したそれをすべて飲み下したシモンは、残りがないようきれいに吸い上げた。別の誰かを愛撫するあいだ、それはずっと勃起したままで、やむなくシモンはそれも再び喉の奥に咥えこんだ。

 最後に伯爵のものが注がれた。あまり深く押し入れられたものだから、シモンは鼻から精液を溢れさせてしまった。ひどい痛みにむせる。咳き込む最中に、シモンは尻に加えられた振動で身をのけぞらせた。

「いあ゛ぁっ、やえて、がっ、あぁっ!」

 振動に耐えながらシモンは咳き込み続けた。薄目を開けると伯爵のものもいきり立ったまま変わりがない。終わらない。苦しい。痛い。

「どうするんだねシモン。このままではいつまで経っても終わらないぞ」

 ようやく振動を止められたシモンは、答えを待つような沈黙のあいだに身を置かれた。朦朧とした目で三人を見上げる。皆が皆、同じように自分を求めていた。震える声で、シモンはこう伝えた。

「私の、手や穴を、使ってくれ」

 ふっと伯爵が初めて笑った。

「皆を満足させられるまで奉仕すると言うんだな?」

 こくりと小さくうなずいたシモンの頭を、伯爵はやさしい手つきでなでた。「良い子だ」と囁いて。

 拘束を解かれたシモンはいたわりのように仰向けに寝かせられた。体をもみほぐされたのも束の間で、赤ん坊のような両手脚を開いた体勢を取らされた。頭の両隣に腰が寄る。シモンは左右の手に男根を握らされて、交互に口に含むことを求められた。乱された穴にひとりが侵入する。張型よりも刺激がやさしかったが、この後代わる代わるに何百回も突かれるのだと思うと気が遠くなった。胸や太腿をなでさすられ、乳首をこりこりと弾かれる。
 身悶える様はあくまで美しく、けなげだった。その清らかさが皆を燃え立たせた。自らの劣情で青年の鍛え上げられた体をどろどろに汚してしまいたい。

 口を責めているふたりは時折腰を浮かせて、二本同時に青年にねぶらせた。すぼめた頬がいやらしい。ひとりのを懸命に吸い上げる青年をなぶるように、もうひとりが目元や顎を肉棒で叩いた。あわててそちらをしゃぶりあげる。するとまた同じように、奉仕を待つひとりが熱くたぎったそれでぴたぴたと頬を叩いた。右のをしゃぶる。ぴたぴた。左のをしゃぶる。ぴたぴた。交互にそんないたぶりを受けて、シモンの目に涙がにじんだ。

 奥を突いているひとりは達するつもりがないのか、延々とシモンの内をかきまわしていた。いたぶる時間を少しでも長引かせるために腰の速度をゆるめている。耐えかねたシモンは喉に絡まる声で皆に頼んだ。「早く、いってくれ」
 伯爵は腰の動きを止めた。冷たい目で見下ろして、シモンの懇願を鼻であしらう。

「生意気な子だ。君の努力が足りないから皆が満足できないんだぞ」

 いきたいなら自分ひとりでいけと、伯爵は媚薬入りの潤滑剤をシモンの体にまき散らした。
「あ、やめて、やめて」たっぷりとした胸をもまれ、ぬるつく指で陰茎をしごかれる。「だめ、体力が、もたない」
 訴えは聞き入れられず、全身をくまなくもみ上げられて、シモンは吐精した。快楽ののちに、ひどい疲れが襲いかかる。
 腰の速度が早まった。「ひあ、 あ、あ、あ、あ、」つらいところに急な勢いで責め立てられたシモンは、潮か尿かわからないものをしゃあっと漏らした。休憩も与えられないまま尻を使われ、がくがくと震えている。その乱れる姿を見ながら自身をしごいたふたりは、青年の顔や胸に精液を迸らせた。一滴も無駄にしないよう、狙い定めて。やがて尻の奥に精子が注がれた。

 痙攣が治まらないシモンの体をひとりが後ろから抱え上げた。そのままゆっくりと挿入し、仰向けに横たわる。覆い被さったもうひとりが同じ穴に分け入った。ひぃ、とわけのわからない圧迫感から漏れ出た声を無視して、もうひとりがシモンの顔にまたがった。目元に陰嚢を押しつけて、口にねじこむ。三人は馬を操るように息のあったリズムでシモンを責め立てた。呼吸はできるように口を使うものは時折腰を浮かせて男根を外し、また押し入れた。上下から胸をもまれ、脚をさすられ、シモンは声にできない悲鳴をあげた。意識が飛ぶことも許されず、苦痛と快感を絶え間なく与えられる。
 愛のない求められ方がシモンをなにより疲弊させた。
 早く、早く終わって。
 自由の利く両手がふかふかの敷物をつかみ、その毛並みをちぎり取った。それを見た伯爵が 「手癖の悪い子だ」と、叱りつけるようにシモンの陰茎をしごいた。くぐもった叫び声が気持ちいいというように、口を責めているひとりが笑う。

「こら、暴れるんじゃない」

 ひとりが青年の体を押さえつけながら、下にいる伯爵に目線で注意を促した。
 これ以上疲弊させると失神してしまうぞ。
 そのゆらめく金色の光を見たもうひとりの伯爵は息を飲んだ。強烈な嗜虐心と劣情にかられたあの光は眼力とは違う、もっと厄介ななにかだ。精神を集中させると伯爵の魔力に翳りが見えた。強大な力に影響されている――早く彼を止めなければ。
 その思考を感知したか、彼にまっすぐ目を見据えられたもうひとりの伯爵は、抵抗する間もなく魔王の力に飲み込まれた。焦りを失い、着席させられたかのように魂を鎮められたもうひとりの伯爵は、何事もなかったようにシモンの脚をかかえて、激しく腰を打ち付けた。

「んんっ、ぐうっ、ふぶぅっ」

 青年の悲鳴をなによりの喜びとして、彼の体を伯爵とふたりで貪り合う。これでは足りない、もっともっともっと――青年を食い尽くして、この世界から奪わなければ。そう、自分自身からも。

 やがて三人は順々に達し、尻や口の中にあふれるほどの精を注ぎ込んだ。長い時間をかけて、ゆっくりと青年の体から離れた三人は、絶頂の余韻を楽しみながら、びくつくその姿を観察した。髪は乱れ、あちこちがぱさつき、顔も体も尻の中もめちゃくちゃに汚されている――それなのにどうしようもなく美しく、穢れない青年の姿を。まだ意識がある。強靱な精神力と体力を持つ狩人をほほえみで称賛しながら、伯爵は彼の身に覆い被さった。

「おい」赤髪の青年が信じられないように止めに入った。「いい加減にしろ。これ以上は本当に死んでしまうぞ」
伯爵はちらりと赤髪の青年を見た。共謀者を見る目つきで。ひるみながらも、もうひとりのシモンは意思を強くして伯爵の肩をつかんだ。

「お前だってシモンが俺たちにそそのかされてあんなことをしたのを知っているだろう」
 伯爵の光は揺るがない。蔑む声で彼を打つ。
「わたしのいないところで淫らな姿を見せたのに変わりはない。はしたない彼の望むことに応えているだけだ」
 おかしな光に屈してはならない。もうひとりのシモンは伯爵を正気に返すつもりで声を荒げた。

「お前がシモンのことに気を向けないから――少しちょっかいをかければ大切なものに気づくかと思ったのに。事情を知っていてそんなに冷たくするなんてどうかしてる」

 伯爵は鼻で笑った。そのふたりのやりとりを静かに見つめていたシモンは、伯爵の目の光と、精神の翳りを見た。彼はもうひとりの自分の言葉を無視して、ふたたび覆い被さろうとした。傍らの青年が叫んだ。

「シモンはお前のことをずっと思っていたんだぞ!」

 シモンは伯爵を抱き寄せて、くちづけをした。すべてを包み込むようにやさしく、穏やかに。伯爵の目が大きく見開かれ、やがて力をなくしたように細められていった。あやしい光が潰えたあとに、至上の金色が美しくきらめいた。ゆっくりと顔を離して、青年を見つめる。「それは本当か、シモン?」
 青年は小さくうなずいた。後悔をこめたため息を漏らして、伯爵はシモンを抱きしめた。

「すまない、すまない――あぁ、すまなかった」

 肩に顔をうずめる伯爵の姿は、とても素直で、純粋で、誰が見てもいとおしかった。耳にこころよい、気のやわらかな潤み声にくすぐられたのか、シモンはふふっとほほえんだ。そのたくましさに皆が驚いた。今までのことなど気にしていないというように、シモンは伯爵の頬や唇にキスをした。脚を絡めて、とまどう伯爵を抱き寄せる。

「シモン、そんなにしたら君の体が」「一度だけでいいから」

 ふたりだけの世界に入り込んだ自分たちを見て、別世界のシモンと伯爵は安堵したようにその場を離れた。大丈夫みたいだと顔を見合わせ、立ち上がる。

「風呂を借りるぞ」

 さっぱりとした声が届く。
 敷物の上で早くも体をつないだふたりは、何度もキスをしながら、甘くくすぐる必死な声で想いを交わした。

「皆、好き勝手に行動したが、ん、良かれと思って、ん、したことなんだ。許して、んむ、くれとは言わないが、んむ、シモン、シモン」

「あぁ、ヴラド、ヴラド――大丈夫、もう大丈夫だから、このまま――あっ、あっ、あぁっ!」

 早まる腰。奥を突かれる心地よさ。
 あたたかい湯船に浸かっているようなやさしいぬくもりが全身を包む。
 愛と幸福に満たされたふたりは、抱擁を硬くして同時に達した。

 ふたりの謝罪を受け入れたシモンは、別世界の自分たちをなんの遺恨もない表情で見送った。にこやかに手を振り、「元気で」と声をかける。ふたりが元の世界へ帰ったあとも、しばらくその空間を見つめていた。
 隣の伯爵がうんと咳をついた。振り向いたシモンの首にそっと手をまわす。誠実さにあふれたその仕草は青年の首に美しい飾りを生んだ。それは稲妻のように真っ白く輝く、神秘的な牙をつなげたネックレスだった。

「錬成に手間取ってしまってな」

 贈られた宝物の代わりに、青年を守護する逸品を探し求めていたという。標的は神にも等しい一匹の獣。霊力を宿す体は狩人の精神をおおいに高め、崇高なオーラで包むことだろう。そう考えた伯爵は別世界へ渡った。三日三晩神獣を追跡したのち、自ら仕留め、その牙を美しくつなぎとめたのだ。

「なにをプレゼントしようかと考えていたんだ。君の宝物を貰ったのだから、それ相応のものを贈らなくては気が済まなくてな」

 シモンはネックレスを手に取った。華美に過ぎず、品の良い、丁寧に研磨された美しい輝きがそこにあった。見ているだけで清新な気力があふれてくるようだ。これを自分のためにわざわざ、手間と労力をかけて。目頭が熱くなる。涙がこみ上げるのをぐっとこらえた。
 遠くを見ていたのも、話しかけても上の空だったのも、そして三日間留守にしていたのも、常に自分のことを想い続けていたからだった。
 力あるものから贈られた立派な品。「ありがとう」シモンは顔をあげて、嬉しそうにほほえんだ。
「良く似合う」伯爵もほほえみ返したが、めまいがするように額を押さえた。心配そうな顔を向けるシモンに「うむ」と答える。

「しかしさすがは知恵ある獣だけあるな。討ち取られた恨みに、このわたしに呪いをかけたらしい。状況を顧みず、君に憎しみと劣情を抱くような―― 愛するものと結ばれぬような呪いを」

「あぁ、やはり」

 目の光がおかしいと思っていたとシモンは語った。今はどこにも異質な力を感じられないところを見ると、呪いは完全に解かれたらしい。純然な行為はあるひとつの力を生む。古往今来、神秘の定石――愛するものとのキスはあらゆる呪いに打ち勝つのだ。

「渡すまでに思わぬやりとりがあったが――まぁ、今までの欲求不満がすべて解放されて、いい気持ちだったな」

 伯爵は大やかな翼で包むようにシモンを抱きしめた。腕の中の青年も愛を返した。背中にまわる力強い抱擁。全身に広がる青年のぬくもり。鼓動と、いとおしい匂いを感じて、伯爵は昨夜の青年の肢体を思い出した。どんなに汚されても、真珠のようなあたたかい美しさを放っていた彼の、甘やかな声と、乱れる姿を。
 腹の底からむくむくとわき上がる欲望に伯爵は困った顔をした。抱きしめながら汗を落として、控えめに呟く。

「また君と愛し合いたくなってきた」

 シモンはふふっと笑った。額をこすりつけながら、伯爵の胸元にそっと囁く。

「何度でも応える」

 伯爵は喜びにあふれた力でシモンを抱き上げた。驚くシモンとにっこりと笑い合い、新婚夫婦がするようにそのままの勢いで廊下を走り抜ける。私室のドアを開けて、誰にも覗かれないように、長い脚でバタンと閉めた。
 軽やかにはしゃぐ声が部屋の奥へと消えていく。
 やがて熱のこもった甘い声がドアまで届き、その戸にしっかりと鍵をかけた。

 終
 15/03/08(日)

 年シ(年代記シモン)の思惑としては、いちゃいちゃしてるところに初爵(初代伯爵)が踏み込んできて、
「わたしのシモンになにをする!」とか言って欲しかったんでしょうね。で、初シ(初代シモン)を安心させると。
 そのあと年伯(年代記伯爵)と一緒に色々と言い合って
 (「みんなのシモンだろ」みたいに)四人でラブいちゃしたかったんです。
 なにはともあれハッピーエンドです。