この世界に喚ばれて、初めて各々の前に姿を見せたときから、シモンは口々に違和感を囁かれたものだった。
第一にジョナサン。
ぱちぱちとまばたきをし、顎に手をあてて、小首をかしげる。
彼はとなりの幼なじみに確かめるように「あれが?」と耳打ちをした。
本人が目の前にいるのに失礼なことをしないでとシャーロットは注意を返したが、彼女もまた、とまどいを隠せないようだった。
彼らの時代にはレコードがある。
偉大な祖先――つまり彼をテーマとした楽曲が伝えられていて、その耳になじんだ最も高名なる吸血鬼狩人の様子と、目の前の彼とは、ふたりが抱いていた想像と一致するところが見られなかった。
謳われていた容姿と似ても似つかないその金色の髪の毛や、蛮勇のイメージとかけ離れた静謐な表情に、ふたりはまず面食らった。
ベルモンド一族の特性である強靱な精神力が表出する隙のない出で立ちや、完成された頑健なる肉体などは期待を超えた迫力があったが、ふたりはそれ以上に、どんな生活をしてきたらそんな光を宿すようになるのか、シモンの――人の身から感じられる荘厳かつ唯一のものである神秘性に圧倒されたのである。純粋な祈りにも似た、崇高なオーラ。原始的でありながら、はっきりとした知性を感じさせる触れがたいもの。彼が一歩前に出たとき、ふたりの肌が粟立った。
「――ここは?」
なんと穏やかな声音だろう、寄る辺を求める表情だろう。
ふたりははっとして、ひとりの年若き狩人にこの世界のしくみを教えようと、親身になって説明を始めた。
彼らふたりの特性である、誰にも不安を感じさせない明るさと、呼応からなる信頼感をたたえて。
第二にリヒター。
高名なる吸血鬼狩人が携える武器の種類に、最初は「なるほど」と納得がいったようだった。
斧にナイフにクロスに聖水、初めて聞いたが聖書まで扱えるようだった。
しかし、謳われている存在の、実際の力量を見るにつれ、徐々に「そんなものかな」と思うようになった。それに関してはジョナサンも同じ意見のようだった。他の鞭使いに比べて体術を覚えることはなく、扱える武具も少なく、協力技で巨大な十字架を立ち昇らせることもない。伝説に聞いていた炎の鞭について尋ねても言葉を濁すばかり。
たしかに鞭の振り抜きは誰よりも早く、身のこなしの隙のなさは感嘆ものだが、目を見張る変わった動きをすることもなく、全般的な威力も他の鞭使いと変わらない。
ふだんの攻撃力に体術を組み合わせることができないぶん、シモンの能力はベルモンド一族のなかでも劣るほうにあたるのではないか――生まれた時代を念頭においても、そんな考えが脳裏をかすめた。
もとから優劣を競うのに関心はないが、人から期待を寄せられる機会が多かったリヒターは、自身の経験もあわせて、彼の立場を気にかけるようになった。
もしもなにか周囲のものから勝手なことを言われているようだったら、それとなくかばい、力を貸そう。
――もっとも、そんな気配りなど無用なほど、彼は彼であるがままに戦っていた。
悪魔城を攻略するには充分すぎるほどの、無駄のない力を備えて。
第三にユリウス。
この歴戦のヴァンパイアハンターがシモンに対して一番腑に落ちない気持ちを抱いていた。
自身の戦い方にも現れる、鞭の振り方について、青年を壁際に追いつめて、どういうことか問いただしたいほどだった。
すなわち、なぜ自分のように鞭を八方向に振らないのか、その理由を。
自身の鞭の扱い方は、かつて青年が編み出したという鞭の振り方を模倣したものだ。伝承でしか知られぬその縦横無尽な鞭さばきを体得するのに、彼はたぐいまれなる探求心と克己心とイマジネーションとでその技を可能にした。先達であるシモンに対して人より尊敬の念やあこがれが強かったぶん、実際に会ってみて、自分でもまさかここまでというほど落胆した。
膝をつき、肩を落とすユリウスを見て、ヨーコがそっと(あらあらという呆れも含めて)その肩に手を置いた。
鞭を垂らすことも、それを振り回して敵を威嚇することもしない青年に対して、「なぜ」という失望の念ばかりが湧く。
青年の鞭の振り方はあまりに実直で、工夫がなかった。
それで充分という達観にもとづく狩りの仕方なのかもしれなかったが、敵に対しても、あまりに誠実で、無慈悲に過ぎた。
異なる性質が鞭の振り抜きに現れるのを見てさすがとも思ったが、やはり――やはり、元祖というものを見てみたかった。
そういった気持ちをこめて偉大なる先祖に鞭の振り方について尋ねてみたが、「お前はお前の戦いやすいように振ればいい」と、逆にその腕を褒められたものだった。自分よりひとまわり年下の、ひょっとしたらなめられやすい雰囲気の青年に、柔和なほほえみを向けられて。
肩に手を置かれたさいに、その柔らかさに宿る剛気を感じ取れなかったら、ユリウスはなおもシモンを問いつめようとしただろう。
彼はそれらの目に見えないなにかに打たれたようにその場に立ち尽くし、祖先が歩み去るのを黙って見守った。
そうして、冷や汗を落とした。
ラウンジにて。
一万年の時を超えてひとつの世界を本に記録する一大事を為し終えた伯爵は、青年が待つソファにゆっくりと座った。
額に手をあてて、やれやれと疲れたような息をつく。
大丈夫か、とシモンが声をかけた。なんのくすみもない、純粋ないたわりの言葉だった。
問題ないと、同時代に生きた伯爵は片手を振り、顔を上げた。隣を見つめ、そういえばと話しかける。
「ここへきてからの君の評判はどうだ?」
うまくやっているのかということはもちろん、その表情は、最も高名なる吸血鬼狩人に対しての惜しみない賛辞を聞きたがっていた。
シモンは少し考え、「あぁ」と心得顔でうなずいた。
「尊重されているよ――とても」
伯爵は同じように少し考え、変わらぬ表情で「そうであろうな」と答えた。
「すべては君とわたしとの戦いがあって今に至るのだ。それを心にとめさえすれば――」
小さな、粗い、丸い点の連なりが為す世界。
想像をめぐらせるように、伯爵は天を仰いで、瞳をとじた。
「――なにを思い煩うことがあろう。
君とわたしがここにいる――なんと、すばらしい」
息を飲む音がした。
熱く揺れるまなざしがふたりの境を埋めた。
震える声音で、シモンは隣に座る伯爵にこう告げた。
「お前と同じ時代の私でいられて――とても嬉しいよ」
終
12/09/29(土)
初代のふたりはゲーム中どのような存在であれ、いつも堂々とした態度でいるんじゃないかしらと。
8bitという同時代のふたりをゲーム画面で見たときに、とても感慨深い気持ちになったので……。