湯船に浸かる少年はどこかうつろなまなざしで水面を見ていた。疲れが出たのだろうと伯爵は考えた。不安な気持ちで迷路をうろつき、あわやというところまで追い詰められたのだから、少々ぼんやりして当然だろう。
それにしても、その身に急激な変調を来しても少しも取り乱さずにわたしと話をしていたとは、この子はなんと強靱な精神力を持っているのだろう。さすがベルモンドの血を引く者だ――そこまで考えて伯爵は少年が震えているのに気がついた。
はっとしてシモンを抱き寄せると、その目は怯えたように彼を見上げた。青い目が薄い翳りを帯びている。伯爵はシモンを抱き上げて風呂を出た。そして自分の呑気さを恥じた。なにをのんびりとしていたのだろう、人の子がこの城の魔力に影響を受けないはずはないのにと。魂と血による聖鞭の加護はあるだろうが、物理的に距離が生まれればその力も弱まる。衣服をすべてはぎ取られたうえで厳寒の土地に放り出されるようなものだ。年相応の鍛練しかしていない子に、この城の魔力は強大すぎるのだ。なんらかの介助をしてやらなければまともな意識を保てなくなってしまうだろう。そして今のシモンに鞭を握るほどの力は残されておらず、自分は鞭に干渉することも叶わない。ふたたび鞭との繋がりを得られれば意識を回復することもあるだろうが、そんな悠長なことをしているうちに、シモンの精神は城の魔力に浸食されていってしまうだろう。
やわらかなタオルで水分をすべて拭っても、その体はどんどんと熱と力をなくしていく。伯爵はシモンをベッドに寝かせたあと、少年の身に覆い被さり、震える唇にキスをした。
許してくれ、シモン――。
少年の喉が嚥下した。乳を飲む赤子のようになにかを必死に得ようとしている。口移しによる魔力の授与だった。精神を侵さないだけのごくわずかな力だが、心身に行き渡れば魂にヴェールがかかるように、この城の強大な魔力から心を守ってくれるはず。
意識を回復したシモンは薄く目を開いて口づけの相手を見た。なにをしているのかはわからなかったが、その必死かつ真剣な様子を感じて、伯爵にされるがままに身をゆだねた。舌を絡ませ、熱くも冷たいなにかを飲み込んでは、また口づける。凍えるような薄暗がりの土地から、暖炉の前に連れて行かれたような、そして背後から毛布にくるんで抱きしめられたような、無上の愛を感じた。このひとと一緒にいれば大丈夫――。
庇護してくれる者は確かにいたが、闇の風はなおも厳しく少年の心に吹きつけた。それは徹底的な排他のざわめきであり、非難だった。精神の鍛練も充分でない少年にとって、それは命の危機にも思える冷たさだった。裸に剥かれて谷底へ落ちることを強要されているような――「助けて」少年は手をさまよわせた。その体をしっかりと抱きしめて語りかける者がいた。伯爵だった。
「シモン、今から君のことを皆に認めさせるためにすることがある」
伯爵はそう言ってシモンに口づけをした。先ほどまでとはまったく違う、悦楽に満ちた甘いキスだった。
怯えていた目がとろりと熱を持った。頭のてっぺんからつま先までしびれが走る。きゅんと下腹部が引き締まった。こびとのように小さくなった自分があたたかい手のひらで揉みしだかれているような不思議な気持ち。それが快感だということに少年はずいぶんあとで気がついた。
伯爵とシモンは見つめ合った。「いやかね」真摯な声で尋ねられて、シモンはふるりと首を振った。なにをされるのかはわからないけれど、このひとは決して悪いことをするつもりじゃなく、ただ必死に自分を助けようとしてくれている。幼い心にもそれがわかった。
「良い子だ」自分に身をゆだねた少年に、伯爵はいとおしげに愛撫を始めた。
見るがいい、城主の寵愛を受ける少年の姿を。真祖の精を分け与えられる幼き狩人の姿を。
伯爵はその神秘的な美しさのある作りかけの繭のような肌にキスを落とした。首筋に顔を埋めるとシモンは可憐な反応を返した。顔をのけぞらせてくすぐったさに耐える。淡い色味の乳首を吸うとこらえきれないように甘い声を上げた。おそらく初めて上げる声だったのだろう。驚きと恥ずかしさで頬を染めて腕で顔を隠してしまった。あたたかな日差しを浴びる絹のような肢体。唇でなぞり、肌をさすり、両脚を開かせると、そこはすでにぷっくらと蜜を膨らませて勃ち上がっていた。
大人の彼と比べてずいぶんと可愛らしい――そんなことを思いながら、伯爵は幼いかたちを口に含んだ。陰嚢ごとくくんでしまえるほどの大胆な口淫だった。「あっ、そん、な」シモンは伯爵の頭に手を伸ばした。「だめ、きたない、です」子供らしい反応に伯爵は口を離してほほえんだ。
「汚くはないよ。君のことを何度もこんなふうに愛したんだ」そして再度シモンのものを飲み込んだ。「あっ、あーっ、」吸血鬼の真祖にしか為せない極上の口淫を受けて、シモンは全身をくねらせながら射精した。はじめての経験だった。きゅうっと睾丸を引き締めてびくびくと打ち震える身のなんと快いこと。自然と流れる涙も彼の内であたためられたように熱を持っている。眩く明滅する視界の中、天蓋を見つめながらシモンは尋ねた。「ぼくと、愛し合ったって……」
「ぼく?」「あ、私、です。直すように言われているのだけれど……」
ふふっとほほえみ、伯爵は少年のものを愛撫しながら囁いた。「気を張らなくていい。口調こそ直っていたが、君はわたしの前ではうんと甘えていたよ。心から気を許して、愛し合っていたからね」
今日もこんなふうにして愛を深めるつもりでいたんだ――そう言って、伯爵は少年の青いつぼみに口づけた。「あっ、いやっ」快感の余韻に浸る間もなく、シモンは感じたこともない刺激に身をのけぞらせた。少年が恐怖を覚えるより先に、伯爵はよく引き締まった脚を抱え上げ、膝が顔に届くまで持ち上げた。柔軟な肢体は苦もなく折り曲げられて、その中心に伯爵の舌が入ることを許した。シモンはなにもわからないままびくびくと快感に耐え、声も静かに泣いている。「あ、あ、んっ、ふっ……」
初めてのことで、なにより子供が大人のものを受け入れるのだから、伯爵は充分に気を遣った。舌で丹念に慣らしたあと、潤滑剤を手に取り、濡れた指を挿入した。「ひっ」若いつぼみはやわらかく、刺激に対して従順で、ほどなく伯爵の指を根元まで飲み込んだ。中をかき回すとシモンは赤い頬を涙で濡らしながら「ひやぁ、だめ、だめぇ」と声を上げた。
「我慢おし。大人の君は良く耐えて、ここでわたしのことを愛してくれたんだ」囁く合間にも指を増やして、隙間から潤滑剤を流し込こんでゆく。目薬と同じく、ポーションを配合したこの潤滑剤は、性交の最中に傷んだ粘膜に素早く浸透し、痛みを回復する作用がある。初めての相手にはもちろん、体力の続く限り愛し合いたい夜にも安心できる逸品だった。朱色の肛門は指と一緒に魔法の薬をこぷこぷと吸い込んでゆく。「ひ、ひ、」シモンはぽろぽろと涙をこぼしながら、思い出せもしない自分をならって、自身をほぐされていく刺激に耐えた。それは心乱されるほどに気持ち悪く、続きを知りたいくらいに気持ち良かった。少年の内はなめらかで、あたたかく、どの指も平等に飲み込んで、やわらかく締めつけてゆく。
「痛かったら言うんだよ」ぽっかりと開いたそこに、伯爵の太身が押し当てられた。返事を聞く前に、それは深くに侵入を果たした。「もっとも、やめるつもりはないのだが」
元のように横たわらせる姿勢に脚を戻し、伯爵はシモンの体を包み込むように抱きしめた。息を整えさせようとキスを落とし、そのうつろに涙ぐむ顔に頬ずりをする。「ごめんよ、シモン。怖いだろう。嫌ってくれてもかまわないが、まずはわたしを受け入れておくれ」
シモンは伯爵の肩口に小さな獣のような声をふーっ、ふーっと染みこませた。痛みと圧迫感に耐えている。その表情は静かで、伯爵の想いを精査するための確かな意識をたたえている。どこまでいけば終わりなのかわからないので、シモンは待った。しかし伯爵のいたわるような仕草は変わらない。やがて気づいた。自分が彼を受け入れることを示さなければ続きを行えないのだと。そしてそれはおそらく、彼のやさしさと愛から来ているのだと。
シモンはこの年まで鍛練を続けてきた誇りある腕で彼の体を抱きしめた。意思の通った腕で彼を抱き寄せ、そのきめ細やかな頬にキスをした。自分から彼に示す初めての好意だった。
伯爵の腰はゆっくりと動いた。「は――あっ」ぎりぎりまで引き抜かれて、また押し込まれる行為に堪えようのない声が出た。その声はなめらかなぬくもりを持って、ふたりのあいだに甘く響いた。「あっ、あっ、あっ……」
「シモン、幼い君もなんと美しく、可愛らしい――」
少年を生かすための行為だったが、その真摯な思いは欲望とまじり、溶け合い、伯爵はいつしか幼き友との愛の営みに夢中になった。「とてもすばらしい――この未成熟な体も、可憐な反応も、なにもかもがいとおしい」
伯爵は様々に体位を変えて少年の濡れそぼったつぼみに突き入れた。少年に片脚を上げさせて、成長途上のそこが淫らに揺れるのを見ては興奮し、また体を抱きかかえて、自身に座らせると、膝立ちをさせた少年に下から突き上げ、その反応を楽しんだ。「いや、いや、あんっ、あんん――」
シモンは突き上げられるうちに幾度も吐精した。快楽を嫌と思う気持ちはなく、伯爵から与えられるめくるめくような愛の手ほどきに夢中になった。後ろから両腕を掴まれて腰を打ち付けられたり、四つん這いにさせられて尻の中をこね上げられても、シモンは彼のことを嫌いにはなれなかった。ただ気持ち良くて、涙を流しながら甘い声を上げていた。「あーっ、あ、あぁ」
やがて最初と同じ姿勢に戻ったあと、伯爵はゆっくりと、情熱的に少年の奥を探り、その中心へと精を注ぎ込んだ。見つめ合い、とろとろにとろけた顔の少年と愛にあふれたキスをする。伯爵の寵愛の証とも言える精を受けた幼き狩人に、もはや城に混在する憎悪の念は向けられなかった。
シモンは熱にうるんだ、ほとんど惚けた瞳で伯爵に尋ねた。「終わり、ですか?」
「いいや、まだだ」伯爵はシモンの体を抱え上げて、自身と対面するように座らせた。少年の奥にはいまだ勢いが衰えない伯爵の逸物が穿たれている。
「これからは誰にも見せない、わたしと君だけの愛の営みを交わそうじゃないか」
伯爵はシモンと舌をからませるキスをして、シモンもそれにちゅくちゅくと音を立てて応えた。背中に腕をまわして、伯爵に身をゆだねると、彼は心得たように尻を抱いて、シモンの内をこね上げる行為を再開したのである。
幼き姿に変わっていなくとも、ふたりは同じようなことをして夜を過ごしただろう。寝台を愛の蜜に浸したふたりは、少しの語らいのあと、穏やかな寝息を立てて、眠りに落ちた。
泣き声で目が覚めた。
時計を見ると愛し合ってから半刻も経っていない。深い眠りに落ちたと思った少年は、伯爵から背を向けてクスンクスンとすすり泣いていた。夢を見ているらしい。
「とうさま」
不安げな声が涙とともに枕辺に染みこんだ。こんなに心細い声は聞いたことがない。それもそうかと、伯爵は少年の肩を抱いた。やさしいリズムで肩を叩いていると、やがて泣き声が止み、呼吸が静かになった。目を覚ましたのだ。そのまま振り返ることもできないように身を固くしている。伯爵は安心させるためにシモンを抱き、こちらに寝返りを打たせた。濡れた頬を指先でやさしく拭って、おでこにキスをする。深く抱き寄せると、シモンが遠慮がちに首筋に顔を埋めた。鼻をすすって、額をこすりつける。
「君とのつながりをなんと呼ぶか、考えなければいけないな」
つながり? とシモンが尋ねた。
「そうだよ。わたしと君は友達だが、今の君にはそれだけでは心許なくて、頼れる相手がいないように感じられるのだろう。ひとりぼっちで戦うにはまだ早すぎるのだよ」
なんの話をしているのかよくわからないが、尋ねることをせず、シモンは伯爵の言葉を待った。伯爵はシモンの肩を抱き、少し身を離して、少年とじっと見つめ合った。
「わたしのことをなんと呼ぶ?」
「クリストファー、様」
「そう呼ばれると距離が生まれて落ち着かないな。それに君も緊張するだろう。……試しに義父様(とうさま)と呼んでみるかね?」
シモンはふるふると首を振った。「ぼくの父様はひとりだけです」ふふっと伯爵が困ったように笑った。「そうか」
その表情があまりにさみしそうだったので、子供心になんとかしようと、シモンは星空のように冴えた頭で考えた。名前で呼ぶのもだめで、自分は父様とも呼びたくない、それなら……。
「おじ様」シモンは伯爵の仮の名前と同じ響きを持つ一族の英雄のことを思い返した。数多くいる兄弟たちの、その一族の輝ける星。「おじ様とお呼びしても良いですか。あなたはぼくの大叔父様と同じ名前をしているから」
伯爵は驚いたようにまばたきをして、それから嬉しそうに目を細めた。「おじ様。おじ様か。良い響きだ」
おじ様と呼ばれた伯爵はシモンを抱き寄せて小さな頬に鼻をすりつけた。髭も生えていないしっとりとした肌だった。「わたしは君の友達で、頼れるおじ様というわけだ。もう一度呼んでみてくれないか」「おじ様」「もう一回」「おじ様」うふうふと耳元で笑い声を転ばせる伯爵は少しも頼れるおじ様には見えなかったが、シモンは伯爵の嬉しそうな様子を見て、ほころぶ頬にやさしく手を添えた。「あの、おじ様、早く寝ましょう」「君が起こしたんだぞ、ふふふ」「ごめんなさい、おじ様」
ちゅっちゅとおやすみのキスを交わして、ふたりは心安らかな眠りに就いた。もう泣き声で起こされることはなく、お互いにさみしさも感じない。今だけの貴重なつながりを喜びながら、ふたりは同じ三日月に座るように、ひとときの幸福な夢に浸っていた。
翌朝(常闇であるが)伯爵はがばと身を起こした。
今まで感じたこともない冷たさがシーツに滲みていることに気がついたのである。そっと手を伸ばし、しっとりとしたものがなにかを確認すると、ふっと息をついて、覚悟を決めたように瞳を閉じた。しつけはしつけだ。おじ様としての責任もある。
そしてシモンを膝に寝かせて、その尻をぺんぺんと叩いたのである。