レジェンドブーツ

 伝説の吸血鬼の城にて。
 天守での戦いに勝利をおさめたシモンは、部屋の中央を見上げた。
 降りてきたのはいつもの金色の宝箱だ。
 それを見つめる青年の様子は、いままでの気迫に満ちた表情と違い、どこか期待のこもらない、とまどいの汗を落とすような顔をしていた。

 シモンは箱をあらためた。
 金色(こんじき)に輝く古の具足――レジェンドブーツが入っていた。

 青年はそれを取り出し、じっと見つめ、それからなんの感慨ももたない表情でその場をあとにした。
 その様子を見ていたものがいた。
 ついさっき狩人に討たれた城主である。彼は憤激した。

「そこは喜ぶべきところだろう!」

 たしか青年はあのブーツをまだ持っていなかったはずだ。なのに、どうしてあんなに感動が薄いのか――それは確かに、先ほどの青年は伝説の具足よりも素早く行動できる品、ソニックブーツを身につけてはいたが、しかし伝説の装備品を前にしてあれはないんじゃないのか。

 復活の早い伝説の吸血鬼は棺に優雅に腰掛け、憤慨した様子であれこれ『どうしてくれよう』といったことを考えていた。
 そして戦いの一部始終を思い返し、狩人が中空を見つめたときに浮かべた、一種の寂しい雰囲気に思い当たった。

「もしかしたら」

 あれか?

 一日も経たないうちに再戦の機会が訪れた。
 両手を振りかぶって突進してくる第二形態の伯爵を、シモンはいつもよりぎりぎりの間合いで跳躍して回避していた。
 どうも歩調に慣れないような動きづらさがある。脚には先ほど手に入れた古の狩人の具足を身につけていた。

 その様子を見た伯爵はなんともいえない胸のつまりを覚えて、そして討たれた。
 動きがいつもより遅いとはいえ、隙のなさは変わりなかったシモンに対し、攻撃は一度でも当たればいいほうだった。

 伯爵が赤い炎をあげてかき消えたのを、青年はしんとした表情で見つめていた。そしていつものむなしいような顔で中空を見上げた。
 光が集まり、かたちを為したそれを見て、青年の目がはっと見開かれた。
 部屋の中央に現れたのは、赤い鼓動を打つ大きな宝玉――魔力の玉だった。

 青年は魔力の玉が落下するのを待たずに、みずから跳躍し、その玉を片手でつかんだ。
 収奪するときのいきいきとした顔、口端を持ち上げる精悍な表情、全身にみなぎる躍動感。
 時のとまったような達成感を胸に抱いて、青年は着地した。
 右手にある魔力の玉を見つめるその横顔はよろこびにあふれていた。

「やっぱりそれが欲しかったんだな」

 復活の早い伝説の城主が、闇の中からむくりと身を起こした。
 青年はとまどいながらそちらをふりむいた。伯爵は憮然とした顔で立ち上がり、青年を指さした。

「昔をなつかしむ悪いくせが出たな。なんださっきの顔は、宝箱から貴重な品が出たときよりも嬉しそうな顔をしおって」

 いっておくが、あの玉は君の反応を確かめるために出した、今回かぎりのものだからな。
 そう伝えると、狩人は右手の玉をもう一度あらため、そして伯爵にむかって笑いかけた。

「……なつかしかった。ありがとう」

 とまどいながらも、してくれたことに対して、心から感謝していた。今回かぎりということに不満をもらす態度は微塵もとらなかった。
 そんな青年を見て、伯爵はだまりこんだ。赤い玉に触発されたような、あたたかい気持ちになっていた。鼓動を忘れた胸が妙にうずいている。

「……まぁ、君が望むのであれば、またこういうことをしてやらんでもない」

 シモンはにっこりと笑った。

「あぁ。また、お前の気が向いたときにでも」

 どこまでも素直で、欲のない、それでいて嬉しさを隠さない態度だった。
 伯爵は知らずに胸をおさえながら話しかけた。

「……時間があるなら、部屋にこないか」

 伝説の城主は、戦いの場である天守以外にも、客人を招き入れるような部屋をすぐ近くに作っていた。シモンと再会したとき、あたりまえのように竣工したのである。なかは人が快適にくつろげるように作られていた。

 以前にそこへ訪れたときの雰囲気を思い出したのか、はたまた今の伯爵の思いを察知したのか、青年はかすかに頬を赤らめた。困ったような顔をしながらも、心はすでに決まっていた。

 青年の肩を抱き、部屋へ招き入れる歩みの途中で、伯爵はこんなことを尋ねた。

「やはり、歩きにくいか」

 靴のことを言っているのがすぐに理解できた。青年は「いや、そんなことは」と首を振った。「さっそく履いてみたが、古の狩人が使用していただけあって、やはりいい作りだと思う」

「そのわりにはこれを手に入れたとき、そんなに喜ばなかったではないか」

「あぁそれは」

 ブーツの折り返しの部分を見て、シモンはこう呟いた。

「思っていたほどモコモコしてないなぁって」

 青年の普段履く靴はイヌイットブーツのようにふかふかの毛皮に覆われた靴なのだ。伝説の具足は心地よい感触を好む青年の期待に外れてしまったのだろう。
 どうということもない理由とともに、あらたに青年の好みを知った伯爵は、これから向かう部屋にも手触りのいい調度品を揃えてやろうと心に決めたのだった。

 終
 12/06/25(月)

 ポップンのシモンさんでクリアしたときのアニメーション、とても素晴らしくて大好きです。
 シモンさんの個人的な外見イメージは初代やx68のいでたちが強いです。あの草摺(くさずり)のごつさやモコモコのブーツに目がいきます。
 ポップンの2Pカラーも捨てがたいです。SFCはもう別格で好きです。
 外見ひとつでもシモンさんのことを書きだすと長くなりますので、このあたりで。